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第4回
タブレット端末の利点と課題を考える

医師が持ち運ぶのにも最適なタブレット。でも本当に医療業務に使えるんだろうか?
使い勝手はどうか、アプリの充実度は、セキュリティは。米国の2人の専門家が解説。

  • 2012年10年末、Apple社は米国カリフォルニア州サンノゼで開かれたスペシャルイベントの中で、iPad miniの発売を発表した。同年11月のZDnetの記事において、iPad miniが医療にどのような影響を及ぼすかについて2人の専門家に向けてのインタビューが行われた。

    インタビューの主の1人は「mHIMSS」のシニアディレクターのデビッド・コリンズ氏。そしてもう1人がヘルスケア会社「テキサス・ヘルス・リソース」の副社長であり、M.D.でもあるフェルディナンド・ベラスコ氏。ともにモバイルヘルス(携帯端末を利用した医療)における専門家だ。

    インタビューではフルサイズのiPadに対してのminiの優位性やAndroidとの比較、今後の医療における展望を述べており、タブレットの医療における基本的な長所と特性が分かりやすい内容となっている。

    今回はインタビューの内容を交えつつ、医療現場で利用するにあたってのタブレットの利点と課題はなんなのかについて考えてみよう。

  • タブレットの利点、iPadの長所

    タブレットを使用することの利点についてベラスコ氏はこう述べている。

    「タブレットの大きな利点は、持ち運びやすいこと。そして直感的に使えることです。その点ノートパソコンだと、例えそれがウルトラブック(薄型軽量のノートパソコン)であったとしても、医師と患者さんの間で使うには壁がありますからね」

    キーボードやマウスといった入力機器を必要とせずに直感的に指でなぞることで利用できるタブレットやスマートフォンは、医療分野においても、既存のコンピュータのような「とっつきにくい」「使い方がわからない」という印象を抱かせることなく、多くの人々に受け入れられている。

    米国ミズーリ州のセント・ルイス・チルドレンズ病院では、小児病棟で子供の遊び道具としてiPadが取り入れられており、手術説明や教育用途でも活用されていると言う。高い機能性や持ち運びのしやすさだけでなく、直感的な使い勝手があることで、コミュニケーションツールとしての役割を大きく果たしているようだ。

    また、病院内においてはキーボードを備えるPCに比べて凹凸の少ないタブレットは消毒しやすいという衛生面での優位性や、コードレスで長時間利用できるため、医療機器のコードに絡まないといった利点もあると言われている。

    また、ベラスコ氏はiPadをAndroidタブレットと比べたとき、以下のような優位性があると語る。

    「どのデバイスでも1つのOSプラットフォームを持っているので互換性が高いですね。使いやすさでも勝ってますよ。それに、健康関連のアプリケーションですね」

    Android端末は種類が豊富で、メーカーが独自のカスタマイズを施したモデルも多い。OSのバージョンも多く存在しているため、機種ごとに使えるアプリとそうでないアプリが出やすい。医療アプリそのもの数だけでなく、アプリが使える端末を考えたときにiPadが優位に立つ点は多い。

    「それにアプリには厳格な審査が設けられてますからマルウェア(悪意のあるソフトウェア)が少ないですし、セキュリティ面での優位性も大きいですね」(ベラスコ氏)

    同氏の言葉通り、Androidを狙ったマルウェアはApple製品の比較にならない程に多い。セキュリティ企業のF-Secureは、2012年10月~12月期に検出されたマルウェアの96%がAndroidを標的にしたようだ、と報告している。

    (出典:F-Secure MOBILE THREAT REPORT Q4 2012

    Androidがマルウェアの標的になりやすいのにはいくつか理由があるが、一番の理由はAndroidがApple製品に比べてオープンな開発環境を整えていることにある。

    アプリ開発者から見ればAndroidでは自由度が高く、ユーザーにとっても自分が使いやすいようカスタマイズしやすいことが魅力だが、システムに重大な変更を施すようなマルウェアの開発も容易に行いやすい。

    また、アプリ提供方法のちがいも大きい。

    iPadやiPhoneでは、原則的にアプリは「App Store」からしか入手できない。同社は出品の際には1週間程度かけて念入りに審査を行っている。このため詐欺や不正を行うような安全性の低いアプリが入りにくく、そのようなアプリが入っていても検出されやすいシステムを持っている。

    一方Androidでは「Google Play」や「Amazon Marketplace」といった公式のアプリマーケットの他、審査を経ずにウェブサイトから直接アプリを公開することが認められている。この際は審査が入らないため、危険なアプリであるかどうかの客観的な基準は示されない。

    また、こうした脅威を防ぐための第一条件はOSを最新にすることだが、脆弱性が見つかったらアップデートによって防げるApple製品に比べ、Android端末にはハードウェアの制約があり最新OSに更新できないケースが多々存在していることも問題のひとつだ。

    モバイルマルウェアの内容を見ると、トロイの木馬が66%を占めたほか、Androidマルウェアでは課金用の番号にSMSを送信したり、SMSベースの有料サービスに登録させるといった手口で金銭を盗もうとするものも多数を占めている。

    このようなリスクがあると、上のセント・ルイス・チルドレンズ病院のような「子供の遊び道具として貸し出す」用途では使いづらい。医療業務や患者さんに関する情報を含む業務において使用していれば、なおさら堅牢なセキュリティが必要となる。業務として使用するのであればよりセキュリティの高いiPadを、とベラスコ氏は考えているようだ。

    なお、2人は医療事業者にとってはiPhone、iPod Touch、iPad mini、iPadと並べたときにiPad miniが最も理想的なサイズだと口を揃える。

    「iPadはポケットに入れるには大きすぎるんですよ。その点miniは医師の白衣のポケットに収まりますからね」

    (出典:クラシコ株式会社 2012年10月24日プレスリリース)

    写真はクラシコ社が販売しているタブレットを収納できるポケット付きの白衣「タブレットポケットコート」で、第4世代iPadを入れることも可能だが、一般的な白衣のポケットでは10インチ近くあるiPad(幅約18.5×高さ24cm)は入らない。

    また、iPadは重量もある。Wi-Fiのみのモデルでは652g、Wi-Fi + Cellularモデルでは662gにもなる。

    診察デスクに置いておいて病気や薬品の説明に使ったり、患者さんへの娯楽として貸し出す用途であればこの重さでも大きな障害はないが、常に持ち運ぶスタイルを選ぶならば、308gの軽量を誇るminiがより適しているということだろう。

  • タブレット導入の障害になるもの

    2人の専門家は、タブレットを医院に導入するにあたって何が問題になっていくと考えているのだろうか。

    「タブレットは非常に直感的に扱う事ができます。けれどもこれを使いこなすには、テクノロジーに精通していなければなりません。また、プライバシーやセキュリティに関する懸念もあるでしょう」(コリンズ氏)

    iPadは確かに比較的堅牢なセキュリティを備えているが、リスクが全くない訳ではない。ネット接続をする限りは悪意あるソフトウェアによって、あるいは自らの不注意によって情報を流出してしまう危険性は常にある。

    そうした懸念が医療業務からタブレットを遠ざけていると言うコリンズ氏の意見は、PCやタブレット、スマートフォンといったネット接続可能な情報機器の全面的な導入に危機感を抱いている多くの人たちが頷くところだろう。

    ベラスコ氏はコリンズ氏と対照的に、「これは私見だが」と前置きした上で、アプリの販売者によるサポートが不足していると答えた。

    「もう既に多くの医師たちはタブレットを利用しています。そして、臨床現場などより広く深い用途で使用できればと考えているんです。今必要なのはタブレットを持つことを奨励することじゃない。医療ソフトウェアベンダー(販売者)が提供しているアプリに対してもっと多くのサポートをしていくことなんですよ」

    アプリに限らず、現在タブレットやスマートフォンを全面的に職務、例えば医療業務において取り入れる際には、システムの構築や使用上のリスクマネジメントは、往々にして自己の責任のもとに行う必要がある。

    安全に運用するには、一定の知識と徹底した管理が必要であり、医療現場にとっては大きな手間だ。

    汎用的に使えることがスマートデバイスの魅力ではあるが、医療業務で今後発展的にこれらの機能を活用していくためには、包括的なサービスと充分なサポートを提供する業者の存在こそ、今は必要なのかも知れない。

 
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