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第9回
病院でビッグデータが活用される国内事例

有名テレビ番組でも医療ビッグデータの特集がされたり、有名雑誌でも医療ビッグデータを扱うリケジョの紹介がされたりと、医療の分野でも「ビッグデータ」という言葉が取りざたされるようになってきた。しかし、国内での事例は海外と比べるとそれほど多くはない。
今回はユニークな事例を紹介し、ビッグデータの可能性に迫ってみよう。

  • (出典:flickr

    日本と欧米では、医療システムはまったく異なる方法で進化してきた。

    欧米では、臨床上の医療データの処理、特に統計解析などを重視した医療データの利用が盛んだ。そこで信頼性のある情報を収集するために、データの標準規格をどうするかについて長年議論されてきた。その結果、医療情報に関する規格は「グローバルスタンダード」として認められるようになった。

    一方、日本の医療現場の情報処理技術は病院の情報システムを中心に発展してきた。病院と企業が共同で病院情報システムを構築するケースが多く、結果として独自のオーダーエントリーシステムが普及した。(これらの潮流に関しては、NPO法人ヘルスケアクラウド研究会理事の笹原英司氏のITmediaの記事が非常に参考になる)

    そのため海外のビッグデータの事例には素晴らしいものがあるが、日本でビッグデータの利活用をする場合、システムや規格そのものがちがうために、同じやり方ではうまくいかない、という問題がどうしても出やすくなる。

    それでは日本の病院はどのようにビッグデータを活用すれば良いのか。その答えは、限られたリソースではあるが、自分たちの病院内のデータを活用する、という点にあるようだ。その例の1つとして、NTT東日本関東病院とUBICが開発した、人工知能を用いた転倒・転落防止システムがある。

  • UBICとNTT東日本関東病院の転倒防止の取り組み

    (出典:UBIC MEDICAL

    日本病院会の調べでは、入院患者の転倒は入院患者数のうち数%の割合で起こっている。月に10000人の入院患者を受ける病院では数十件ほど起こる計算だ。

    看護師は24時間体制で患者をみる必要があるが、一人一人の患者に常に意識を向けていくことは難しい。特に在院日数が短い病院の場合、患者の入れ替わりも激しく、今の状況を把握することだけでも精一杯である。

    NTT東日本関東病院でも、看護師が多忙で状況の把握が難しいなどの課題があったため、個々の患者の転倒・転落リスクを迅速に察知出来るソリューションが求められていた

    (出典:flickr

    そこで2015年2月、UBICは同病院において共同研究を実施。転倒・転落の前兆行動が記載された患者の電子カルテを使い、1万件以上の電子カルテを人工知能に分析させた。それにより、患者ごとのリスクをスコア表示できることを確認した。実際に転倒・転落のリスクが高いと思われる患者のカルテを短時間でリスクが高い順に確認できたという。

    わずかなデータからでもかなり正確な分析を行うことが出来るため、特に転倒リスクの高い患者に注意を振り向けられるようになる。

  • できることは沢山ある

    前述した例は、電子カルテのテキストデータを利用したもの、つまり電子カルテを院内で利用している病院や医療機関であれば、活用できるシステムだ。

    医療従事者は日々患者の命を預かっている。常に最大限に気を遣う職種であるが、医療従事者それぞれが担当領域に注力している為に、うまく連携が出来ずに、業務の無駄が生じていることも少なくない。しかし、普段必要に迫られて記録している診療録、検査記録などを、普段とは別の形で応用することで、業務の無駄や漏れを防ぐことができるかも知れないのだ。

    他にどんな例が考えられるだろうか? 例えば、MRI検査を健診で行う国は日本しか無いそうだ。日本では、毎年数百万人の単位の方が人間ドックを受診しているが、人間ドックで蓄積したMRI画像を教師データにして、画像解析するシステムがあれば、疾患の傾向を予測することが出来るかも知れない。

    放射線科医は、毎日膨大な量の画像を診断しなければならず、ヒューマンエラーによる読み落としはいつ起こってもおかしくない。これまで撮像してきた画像データと患者の経過を示した電子カルテの情報を組み合わせれば、どの画像が疾患の可能性が高いかを予測出来る為、読み落としを防ぐことができる。

    海外では医療情報の標準規格が定められ、医療機関をまたいで電子カルテの情報等を共有したりするようになってきており、日本よりもビッグデータの戦略が進んでいる。

    日本では医療機関のビッグデータ戦略はまだ始まったばかりのように見えるが、今後、病院単位だけではなく、医療機関ごとにも連携して、地域医療の問題解決、ひいては日本全体の医療問題の解決につながればと思う。

 
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