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第17回
救急医療に役立つアプリ3選

救急医療が必要な症例は多くあり、中毒や感染症、抗生物質など幅広い知識と対応が要求され、個々の医師がその全てに対応をするのは難しい。
今回はそんな時に役立ちそうな、救急医療スマートフォンアプリ3点をご紹介する。

  • 救急医療を担当する医師の医療分野は幅広い。災害医療やドクターヘリやドクターカーでの病院前医療から、中毒や蘇生医療、重症患者の手術や集中治療などだ。

    そうした緊急医療において、サポート役として重宝するのが薬剤師の存在だろう。救命救急センターでも薬剤師は欠かせず、医師や看護師が短い時間で処置を行う間に、冷静に記録を取ったり、中毒症状であれば起因物質の鑑別から、毒性や薬理作用、必要な解毒剤や拮抗剤などの情報を提供してくれるといった役割を果たしている。

    しかし、現状はこのような環境が整っているとは言いがたい状況である。
    救急病院に勤務する医師にアンケートを行ったところ、約9割が救急医療の現場に薬剤師が必要と答えたにも関わらず、実際に薬剤師がいるのは約3割にとどまる結果となった。

    今後より多くの薬剤師が救急医療現場で活躍することが望ましいが、彼らがいない現場で、あるいは彼らと連携する上で医師が役立てることのできるツールには、どのようなものがあるのだろうか。今回は救急医療分野において評価の高い、3点のスマートフォン用アプリをご紹介しよう。

  • ACEP Toxicology Section Antidote App

    iOS(iPhone・iPad)(無料)
    Android(無料)

    こちらは救急医療で遭遇する中毒に対する使用薬や解毒剤のさまざまなレジメンに容易かつ迅速にアクセスできるツールだ。たとえば、一酸化炭素中毒と思われる患者さんに遭遇した場合、アプリに一酸化炭素と入力して検索することで、適切な解毒剤として「hyperbaric oxygen(HBO)」と詳しい対処方法を表示させることができる。

    また同アプリは即座にアメリカ中毒事故管理センターに電話することも可能となっており、中毒の患者さんを診断するときにはアプリを使ってまずは毒物医療の専門家に電話で相談して正確な物質の特性、中毒情報、解毒剤などを確認し、アプリ内の情報はあくまで緊急時や予備知識として扱うことを想定しているようだ。

    日本国内で利用する場合はセンターに電話をして確認、という形は取れないため、やや実用性では劣る。それでも中毒症状に関する基本的な項目約50点の解毒剤とその用法が掲載されており、中毒症状に関するガイドラインの価値は高い。救急医療に携わる医師のみならず、内科医や小児科医にとっても役立つアプリだろう。

  • 2015 EMRA Antibiotic Guide

    iOS(iPhone・iPad)(2000円)
    Android(2026円)

    EMRA Antibiotic Guideは抗生物質を使用する際のクイックリファレンスガイドとして作られたアプリだ。骨や関節、循環器からバイオテロや環境曝露、小児感染症まで網羅しており、外来の患者さんの管理から、入院を必要とする患者さんまで、幅広い用途で使える内容となっている。

    利用の際には、画面下部のOrgan(臓器)、Diagnosis(診断)、Organism(細菌名)より該当の項目をタップしてそれぞれの一覧を参照するか、検索キーワードを入れることで検索を行う。

    その他ノートでは各診断や投薬についての情報を書き留めることができ、ブックマークからはよく使用している診断に迅速かつ簡単にアクセスできるよう保存可能。そのほか投薬量計算機などの機能を備えている。また「トピック」ではバイオテロなど、毎年注目の事項についてのリストと関連する詳細情報を閲覧できる。

    同アプリの発行者は独立レジデント団体Emergency Medicine Resident’s Assosiation(EMRA)。書籍版も販売されており、開業医から医学生、一般市民にも役立つ情報があり、仕事においても実用的だと評価が高いようだ。

    どの診療科でも感染症には遭遇しやすく、患者さんの病歴や症状、薬剤など複数の要素からどう正しい診療に結びつけるかの判断は難しい。このAntibiotic Guideは網羅されている情報も広く、どの分野の医師にも役立つアプリとなるだろう。

  • ERres - Emergency Medicine In The Palm Of Your Hand

    iOS(iPhone・iPad)(1200円)
    Android(1237円)

    最後に取り上げるのは、救急医療に関する体系的な知識をコンパクトにまとめた「ERres」。60ヵ国以上で医療系アプリのランキングにランクインするほどの大人気アプリだ。

    同アプリでは「毒物」(透析による除去方法やヘビに噛まれたときの対処法など)、手術(脳脊髄液の分析や局部麻酔薬など)、「超音波検査」、「挿管・鎮静」、「蘇生」(ACLSや敗血症など)、「ルール」(オタワルールやSanFrancisco syncope ruleなど)、「ドラッグ」(解毒剤、局所麻酔薬など)、「内科」(神経内科、アレルギー、婦人科など)、「外傷」、「小児科」(急性中耳炎や骨折におけるソルターハリス分類など)などの情報を見る事ができる。

    アプリを開くと15項目がアイコンイラスト付きで表示。外傷について調べるのであればこの中から「Trauma & ortho」のアイコンをタップすれば部位のリストが出てくるので、あとは順を追って該当する項目を選択していけばよい。項目によっては下図のようにイラストや写真などで解説されていることもある。

    こちらのアプリは機能も多く網羅している情報も多岐にわたっているため学習にも役立てることができるだろう。看護師・研修医・医学生など、幅広い人におすすめできるアプリだ。また他のアプリが改訂するごとに新しいバージョンで販売するのに対し、ERresは将来的にも継続してアップデートし、毎年買い換える必要がないと謳っている。

  • 実用ツールから技術や知識の向上のお供として

    今回は救急医療にスポットを当て、幅広い知識が要求される救急医療に役立つアプリを3点紹介してみた。すべて日本語に対応していないアプリではあるが、どれも日本では普及していない分野であり、実用性も高い人気アプリだ。それぞれ機能も豊富で、緊急医療に携わらない医師にとっても参考になるところはあるだろう。

    今年はMERSの話題が飛び交ったし、冬になればインフルエンザが必ず流行している。救急医療に必要な知識は常に増加しており、さまざまな分野・レベルの医療を求められている状態だ。それらの対応に追われる救急医療従事者の方をはじめ、その他の分野の医師の方々がこれらの救急医療のアプリを活用して、現場での迅速で正確な診断ツールに、あるいは技術や知識の向上のお供としていただけると幸いだ。

    ※本記事内でご紹介したアプリの内容と価格は2015年8月現在のものであります。

 
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