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第11回
同じ境遇のがん患者さんと気持ちを分かち合うSNS「I Had Cancer」

患者さん同士が交流する有名な医療SNSとして、データを持ち寄って医療の向上に貢献することを目的とした「Patientslikeme」がある。
今回はその対照的な例として、患者さん同士がつながることで精神的なケアを行うことを目的とした患者さん同士の交流SNS「I Had Cancer」をご紹介しよう。

  • (出典:flickr

    海外の医療系SNSをざっと見てみると、以下の3つに大別することができるようだ。

    1. 「Doximity」など、医療者の社交の場を目的とする、医療者間で情報交換するもの
    2. 「Practice Fusion」や「Healthtap」など、医療者対患者さん間で情報交換するもの
    3. 「Patientslikeme」など、患者さん同士で情報交換を行い、活動や心情を共有するもの

    今回は、患者さん間の情報共有をテーマに、がん患者さんのコミュニティサイトである「I Had Cancer」を取り上げたいと思う。同じ患者さん同士の情報交換SNSでも、「Patientslikeme」は少々趣のことなる、患者さんの気持ちに寄り添うことを第一としたSNSだ。

  • がんを経験したときに同じ悩みを持つ人がいて救われた

    (出典:flickr

    米国のNational Cancer Instituteの調べによれば、米国におけるがんの5年生存率は6割程度だという。

    がん治療は日本だけでなく米国でも医療の重要な位置を占めており、治療は主に外科手術、放射線治療、化学療法のいずれかを組み合わせながら、治療成績の高い治療法を選択する。

    早期であれば比較的低侵襲な手術によって切除することも出来るが、進行がんの場合、長い間放射線治療や抗がん剤を使った化学療法を続けなければならない。がんの治療をするために副作用を伴うことが多く、一度完全に治療できた場合でも、別の場所にがんが再発する可能性はゼロではない。

    医療者の立場から、患者さんの気持ちをどこまで分かってあげることができているだろうか? 先の見えない治療期間の中で、患者さんはどうやって不安や悩みを吐露すればよいだろうか?

    こうしたがん患者さんの内に秘めた心情を同じがん患者さん同士で共有できるのが「I Had Cancer」である。このサービスは、がん治療に携わる人達がそれぞれの体験を活かして、助け合えるような仕組みづくりを作ろうと考えたMailet Lopez(以下、ロペス)氏が中心となって起ち上げたものだ。

    (出典:I Had Cancer

    創業者のロペス氏はキューバ出身で、1980年に米国に移住した。新しい文化や英語に馴染み、マスターした後は設計やデザインに対する興味が高まり、グラフィックデザインの学位を獲得。しかし2008年に乳がんのステージ2と診断されたことが人生の転機となったという。

    ロペス氏はがんと向き合い、たたかう上で、自分と気持ちを共有できる誰かとつながっていたいと思ったが、自分の近くに住んでいて、同じくらいの年齢で、同じタイプのがんを患っている人を見つけるのはむずかしい。実際にオンラインなどでも検索してみたが、なかなかうまくいかなかったそうだ。

    それでも最終的には、自分と似たような境遇で、しかも同じ年齢の話し相手を見つけることができた。ロペス氏はこのとき同じ経験を持つ2人だからこそ得られる安心感、がんと向き合える力となることを実感し、ITに関する技術とがんの経験、2つの経歴を生かし、がんに苦しむ人たちが自分と似た経験を共有できるSNSをはじめることを思い立ったのだった。

  • 自分の希望する条件に合った人たちとつながるためのSNS

    (出典:I Had Cancer

    「I Had Cancer」はこうした経緯もあって、自分と似た境遇の患者さん同士が知り合い、がんから来る精神的な苦痛や闘病を分かち合ったり、病気を克服するために力づけあったりすることを目的としている。

    同SNSの利用層は主に3種類に分かれる。1つは現在がんと診断されており、情報やサポートを求めている「fighters」、すでに病気を克服しているがまだもう少しサポートが欲しいか、あるいは逆に誰かを助けたいと考えている「survivors」、自分の親しい人ががんとなり、その人のための情報やサポートする方法を模索している「supporter」だ。

    I Had Cancerでは利用者たちがプロファイルを作成して登録しているので、新規の利用者はその中から自分と境遇が近かったり、自分が求めているような他の相手を見つけることができる。自分の目的に合った人を捜す「Browse Community」のページを見てみると、13~95歳の間で好きな年齢を指定する他、性別、住所、癌の種類、発病した時期を指定することができた。

    (出典:I Had Cancer

    また、今病気にかかっている人なのか、すでに治ったか、あるいは病気を支えたいサポーターなのかも条件に含めることができるので、「今闘病中で自分と病気を分かち合う人を捜したい」、あるいは「病気を克服した人にアドバイスしてほしい」など、細かな目的にも対応できるようになっている。

    この検索の結果思うような相手が見つかったらサークルに招待することもできるし、そこからよりプライベートなニュースやメッセージを共有することも可能だ。時間や場所を越えて、数多くの人間ががんという共通の疾患を通して、医療者には直接伝えられない心の痛みを共有することができるのだ。

  • 最初はすべての情報を公開したいと思うかも知れないが、あとで後悔することもある

    「I Had Cancer」と同じく患者さん同士が交流できるSNSとしては「Patientslikeme」がある。しかし「I Had Cancer」はあくまで「患者さん同士が気持ちを分かち合う」ところに目的があるが「Patientslikeme」は自分たちの疾病に関するデータを持ち寄り、研究者ともデータを共有することで、難病に効果的な療法を見つけることなどを目的としたデータ活用に重きを置いている。

    このちがいは、情報開示のあり方にも現れている。Patientslikemeでは利用者が自分たちのデリケートな問題を開示する必要があるが、I Had Cancerはがんに対処することは非常に個人的・感情的な問題だとし、利用者のプライバシーを守ることを最優先しているのだ。

    そのため、どこからどこまで情報を公開できるかについても細かく設定できるし、ロペス氏が同SNSに関するインタビューで、「利用者はどのような声を寄せているのか」と聞かれたときにも、このように答えている。

    「利用者はサイトにおいて自分自身のストーリーをつながりたいと思う人と共有できる。でも、これらの素晴らしいストーリーの一部を私たちが自分の都合で公開することはできないわ」(ロペス氏)

    Patientslikemeが「情報を公開して医療の向上につなげるSNS」とするなら、I Had Cancerは「近しい人とだけ分かち合うことで支えになるSNS」といえるだろう。患者さんにとってもこうした選択肢がある方が、自分の使いたいと思えるSNSを選びやすいはずだ。

    最後に、I Had CancerやPatientslikemeは英語サイトだが、日本のがん患者さんも実践できる「ブログを活用する方法」についてロペス氏が言及しているので、その内容も軽くご紹介しよう。

    自分のがんの話をブログに書くのは自分の気持ちと向き合ったり、治療や進行状況を家族や友人と共有したり、もっと多くの人たちとつながる上で効果がある、とロペス氏は述べている。その際のコツは、まず自分だけが読むものか、家族や友人たちに近況報告できるようにするのか、広く人々に情報公開するものかを決めて行うことにあるのだそうだ。

    「最初はがんや自分に関する情報をすべて公開したいと思うかも知れないけど、後で後悔することもあるから慎重に行ったほうがいいわ。一度行った投稿は削除することはできてもコンピュータのメモリに記録されているとキャッシュを介してネット上に残る可能性がある。あまり多くの情報を開示すると、あとあと自分の家族やキャリアに悪影響を与えることもあるから」(ロペス氏)

    これはブログのみならず、SNSやその他オンラインサービスを利用する上でも重要な「準備」といえるだろう。

 
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