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第8回
医療現場におけるビッグデータの活用事例

ビッグデータは宝の山だとも言われるが、医師など実際の医療にあたる現場のスタッフにとっては、自分たちにとってどのような効果があるのか、分かりづらいところも多い。
医療現場でビッグデータが活用されることになったら、どのようなメリットがあるだろうか?

  • (出典:flickr

    米国では、医療情報の電子化、コストを削減するために医療ITツールを利用するケースが増加している。技術の進歩、法規制や政府の優遇措置といった事情により、多くの医療機関が健康記録をこれまでの紙ベースのものからデジタル形式のものに変更し、これが情報分析や医療上、あるいはコスト上の洞察にも大いに利用されているそうだ。

    またこれらのデータ化した医療情報は一括してとりまとめ、個人を特定可能な情報を削除した上で臨床試験や検査に使われるというケースも多く見られるようになった。データがデジタル化したからこその活用法だが、当の医療従事者はこうした医療ITツールやビッグデータにどのように向き合うべきなのだろうか?

  • 総合的な医療プラットフォーム「Practice Fusion」

    (出典:Practice Fusion

    医療でビッグデータを早くから活用してきたサービスの代表格としては「Practice Fusion」がある。

    Practice Fusionは2005年、Ryan Howardという人物によって設立された。ロ-ンチ当初より医療従事者に向けて使いやすい電子カルテ(EHR)システムを無償で提供。通常EHRシステムの構築には5万ドル(約600万円)かかるとも言われる中で、サービス開始当初からシステムを無料で提供するサービスは異例であり、画期的な出来事だった。

    同サービスの電子カルテは30以上の専門分野に対応したテンプレートが用意されており、直感的にチャートに沿ったメモをオンライン上で書いていくことができる。その使いやすさから多くの医師や看護師、病院管理者の支持を集めた。特に規模が小さめの病院や個人病院にとっては、無料で良質な電子カルテが取り扱えるとあって、重宝するサービスだったようだ。

    2007年からは医療記録を追跡するためのクラウドアプリも開始。これまでの「電子カルテサービス」のみならず、医師・患者さんの両方が病歴やデータにアクセス可能な医療情報の総合プラットフォームへと業務内容を拡大していく。現在は電子カルテの他、電子処方箋の作成や医療費の請求、患者さんや施設の日程を管理するスケジューリング、オンライン予約など、数々のツールを無料で利用可能だ。

    こうした充実した機能により、2013年には利用する医療事業者の数は15万人以上、記録している患者さんの数は6400万人にものぼったという。同年にはこれらのEHRに蓄積されたデータをもとに、Insightというデータベースサービスも開始した。

    閲覧できる服薬データの例(出典:Practice Fusion

    これはリアルタイムの医療データベースで、研究者や医師は無料で服薬データの例などを閲覧することができる。さらにこのサービスのプレミアム版(有料)では、研究所や薬局のスタッフ、医療事業者がより詳しいデータにアクセスし、治療支援プログラムなどに活用することができるという。これらのデータはあらかじめ個人を特定できるような情報を削除することでプライバシーを確保しているとのことだ。

  • ビッグデータを取り扱うサービスの利点と接し方

    医師や看護師などの医療従事者が、Practice Fusionのような包括的なソリューションを利用する場合、どのようなことが利点になるだろうか。また何に気をつけて利用するべきなのだろうか。こちらについては、医療関係者がビッグデータを取り扱う際の心得を示した記事がいくつかあり、これらの内容がどのようにサービスと付き合えばよいかを考える上でも参考になりそうなのでご紹介しよう。

    1. 利用方法を詳しく学べるプログラムを利用する

    集められた医療情報を取り扱う上で肝要なのは、これらの情報の取り扱い方、またどのように「分析」するかのノウハウを知っていること。そのため医療機関の心得を説いた記事では、医師や看護師、介護士などにツールの使用方法を説明してよく理解させる必要があるとしている。

    今回紹介している「Practice Fusion」ではセットアップのみならず、米国人スタッフによる電話サポートからトレーニングまで、無料で利用可能。また同サービスの集中的なトレーニングコース「PFアカデミー」もサンフランシスコで行われており、アカウントの作成からグラフや電子処方の作成、カスタマイズの仕方など、EHRサービスに関する内容を1日(午前9時~午後5時まで)かけて学ぶことができるという。

    (出典:Practice Fusion

    2. すべてのスタッフが同じ情報にアクセスすることで問題を防ぐ

    以前にもまして、ヘルスケア施設の多くはクラウド・コンピューティングを使用するようになった。そのため医療プロバイダはいろいろな職種・部門の人たちが同時に同じ情報にアクセス可能なソフトウェアの構築が求められているという。こうした「すべてのスタッフが同じ情報にアクセスできるサービス」は連携がしやすい他、患者さんの病気の兆候や不正確な情報などによる問題を抑止しやすいことも大きな利点だ。

    3. 複数のソリューションを照合することによる多角的なレポート

    Practice Fusionのような包括的なソリューションでは、EHRのみならず医療請求書や、医療画像・動画、スキャンした文書、医師のノートなどさまざまな情報を扱えるようになる。さらに個々の臨床データや患者さんの問診メモ、保険金請求などを照合して病気や社会的・心理的リスクを多角的に判断し、レポートにすることができるのだ。

  • 個々の現場でも役立つ「ビッグデータ」

    医療事業者がビッグデータを取り扱うという場合、ビッグデータを統合的に取りまとめ、自動化するようなシステムを自分たちで構築することは難しい。そのためPractice Fusionのようなソリューションを活用することになるだろう。

    Practice Fusionには集めた患者さんのデータを研究所などのパートナーと共有し、治療支援や研究に生かすという側面もあり、こちらのほうが一般的な「ビッグデータ」の印象に近いが、医療事業者にとっても複数の情報を照合しての分析、多人数によるチェックが働くことで、個々の患者さんのリスクを予期しやすいという価値もある。

    またPractice Fusionはこうしたシステムを導入する中で重要なポイントとして、まずは各臨床現場に最低1人、EHRシステムの運用に精通するスタッフがいて、運用方法と権限を決定し、各スタッフに指示できる体制をつくることを挙げている。このような「導入の仕方」をサポートし、パートナーとなってくれる事業者であることも、ソリューションを選ぶ上での重要な要素となりそうだ。

 
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