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個人の医療情報の電子化や電子カルテの構築が進められている。
ヨーロッパにおいては特に医療分野でのICTの活用は目覚ましい。
医療のICT化はどのような変化を医療にもたらすのか。
各国の医療ICTの取り組みの実態と展望を紐解く。
(出典:flickr)
電子カルテは1990年代に始まった。その当時は紙のカルテと併用していたが、少しずつペーパーレス、電子化へ向かいつつある。具体的に医療機関側は電子カルテのメリットをどのように感じているのだろうか。
総務省が2012年3月に行ったアンケート「ICTが成長に与える効果に関する調査研究」によると、積極的なICT化に取り組んでいる医療機関の多くが、「医療従事者間における情報共有の活性化」について「効果があった」と述べている。
一方で、「レセプト作成の容易化」「介護福祉施設などとの医療業務連携の進展」「他院、医療業務連携の進展」といった項目で、「非常に効果があった/効果があった」と答えた医療機関は、ICT化に取り組んでいる医療機関においても半数ほどにとどまった。
日本では、院内の情報共有における効果はある程度実感されているものの、院外との情報共有、事務処理向上、労働時間短縮といった効果はまだ現場レベルでは得られていないのが実態のようだ。
それでは、国外ではどの程度医療分野のICT化は進められているのか。またICT化により、どのような取り組みが可能となるのだろうか?
ICT技術活用の目安のひとつとなる「電子カルテの導入率」を見てみよう。2013年6月のブルームバーグ調べでは以下のような結果が見られた。なお同調査は電子カルテ導入状況の上位10カ国を調べたもので、電話やメールによるサンプル調査によって行われた。
1位:ノルウェー ・オランダ 98%
3位:英国・ニュージーランド 97%
5位:オーストラリア 92%
6位:ドイツ 82%
7位:米国 69%
8位:フランス 67%
9位:カナダ 56%
10位:スイス 41%
電子カルテの普及が最も進んでいるのはヨーロッパ諸国で、中でもノルウェー、オランダ、イギリスは数年前から既に100%に近い割合で導入されている。
医療ITを推進する団体、HIMSSのプロジェクトの中に、北欧諸国を中心に共同開催するNordic eHealth Exchangeという取り組みがあり、ノルウェー、デンマーク、フィンランドなどといった国々が、EHR(日本でいう電子カルテ)の普及の為に取り組んでいる。
特にノルウェーでは、保守党政権のもとで、ヨーロッパのどこでも医療サービスが受けられるような制度づくりを進めているが、これもEHRシステムが普及しているからこそできることだろう。
(出典:flickr)
上記の調査には見られないが、ヨーロッパ北東部に位置するエストニアも、ICT技術の活用と普及がめざましく、eHealth先進国と称されている。
同国は旧ソビエト連邦から独立してから、IT立国として台頭してきた。2002年初頭には、単純な身分証明書に過ぎなかった国民IDカードを、電子式に切り替え、あらゆるサービスや公共機関で利用できるようにした。
EU内のパスポートや運転免許証として、路面電車やバスの定期券として、また銀行口座の残高や年金受給の状況確認、ネット投票などにも用いることができる。
(出典:flickr)
IDカードの用途は、医療にも及んでいる。エストニア政府のIDカード部門「e-estonia」によると、国民はこのIDカードを利用して自分の過去の診療情報をWeb上で確認したり、医師と連絡を取り合うことができる。
一方医師は、救急時に患者さんのIDデータから、血液型、アレルギー、エストニアの病院で受けた診断情報などを知ることができる。
こうした仕組みがあれば、医師だけでなく患者さんも、PCやタブレット、スマートフォンなどを使って時間や場所を問わず健康情報を見ることができるようになる。患者さんは自分自身の健康について一定の指標を持つことができ、医師側は外来診察で確認したり判断する情報を絞ることが可能となるのだ。
エストニアは既に約98%の処方箋が電子化されており、2015年には病院を含めたすべての施設に電子処方箋システム導入が完了すると言われている。
(出典:flickr)
デンマークも政府主導で公的機関の機能をITに特化することで、IT先進国としての立ち位置を築いてきた国のひとつだ。
特に医療ICTについては、医療従事者用のデータベース「Medcom」と市民・患者・医療従事者用の「sundhed.dk」があり、医療情報を一元管理することで、全国のすべての開業医と市民が健康状態を閲覧できるようにしている。
またフェロー諸島、グリーンランドなどの一部の自治体では、遠隔医療やリハビリテーションの実証実験を行っている。同国の遠隔医療の歴史は古く1990年代から始まっており、段階的に全国に推進していく予定だ。
2011年には、20の都市と糖尿病性足潰瘍患者さん400名が参加した在宅医療事業が始まった。
同病は通常定期的な通院が必要であるが、訪問看護師が患者さんの家に訪れ、携帯端末、タブレットなどを使用して患部の写真を撮影。このデータや看護師による病状の詳細なコメントが医師がアクセス可能な電子潰瘍データベースにアップロードされる。
データやコメントがアップされると専門医の元に通知が届くため、専門医は通知があると随時対応し、治療法や投薬などの治療指示を看護師に行う形だ。
現段階では完全な「在宅医療」ではなく、経過観察期間中のうち3回に1回は来院する必要はあるが、遠方に住む患者さんは病院に通う手間を減らすことができ、医療費削減と時間節約につながると期待は高い。
また、この取り組みを一歩前進させた、ホーム・モニタリングやオンライン・リハビリテーションなども行われている。
ホーム・モニタリングは、「患者さんが自身に関する電子カルテをアクセスできる」という同国のシステムを活用したものだ。経過観察が必要な患者さんが、測定可能な範囲で自身の健康状態に関する数値を測定し、データをアップロードする。そのデータを見て、医師が治療指示の判断を行うのだ。
オンライン・リハビリテーションは、リハビリセンターと患者さんの自宅をテレビ電話で接続し、1人の先生が同時に20人の患者さんを相手に、リハビリを指導するという試みだ。なお、リハビリで使用する機器は各地方自治体よりレンタルする仕組みだ。
これらの取り組みのもっとも大きなメリットは、外来診療を減らし、より複雑な判断が求められる医療措置に対して医者が時間を割くことが出来るようになることだ。また、ホーム・モニタリングには、患者さん自身が自分で経過を調べることで自身の状態を把握し、自主的な健康管理を行えるという利点もある。
これらの取り組みでも、オンライン接続されたPCやタブレットなどが活躍している。医療ICTの発展において、スマートデバイスは大きな意味合いを持っていると言えるだろう。
(出典:flickr)
この先日本でも、医療ICT化をどう進めるかは大きな課題のひとつだ。特に高齢者問題をどう解決していくかを考えたとき、デンマークのような遠隔医療やホーム・モニタリングを導入する利点は大きい。
既にGEヘルスケアジャパンの「Healthymagination」や亀田総合病院グループの「AoLani」などのように病院、企業単位でクリニックと連携して活動しているところもある。
ただ、日本の場合、国家統一のネットワークが確立しておらず、医療機関によって環境は様々であることが大きな課題となっている。デンマークやエストニアのように、包括的な医療情報のIT化を定着させることはできるのだろうか。
ヘルスケア・セクターの専門家であるPeeter Ross博士は、医療情報をどのように統合するか、異なる医療機関でデータを共有するかという問題は日本を含めた多くの国にとって大きな課題となっているとした上で、IT化の定着には、最大限安全な医療情報管理を行うこと、高齢者を含むすべての国民に利便性を提供することが重要であると語っている。
「エストニアでICチップ搭載型のIDカードが普及した背景には、このカードを所持するだけで医療機関をはじめとするほとんどの公共機関のサービスにアクセスできる利便性があった」(日経デジタルヘルスの記事より)
ICT化はともすれば、個人情報を一括管理されることやセキュリティ上の不安、あるいは手続きの煩雑さを利用者に課してしまう面がある。いかに利用者に安心して使いやすい機能を提供できるかという点が、医療ICT化を促進する上での鍵となるのではないだろうか。
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