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第5回
ヘルスケア製品とビッグデータの関係

2012年、米国では1年で1万ドル以上のファンドを集めたヘルスケアベンチャーが100社以上にのぼった。
これら新興のヘルスケア企業は、データを利活用することで次々と製品を開発・商品化している。
医療事業者はこうしたヘルスケアアプリやサービスと、どのように向き合うべきなのだろうか?

  • ヘルスケアサービスが活況

    (出典:flickr

    米国では、オバマケアの政策の「Meaningful Use」という制度のもと、各病院は医療IT対策を進めてきた。一方企業も数多くの新規事業を立ち上げており、医療の世界へ進出してきている。

    この機運が米国で高まったのは一昨年のことだ。2012年に、米国では1年で1万ドル以上のファンドを集めたヘルスケアベンチャーが100社以上にのぼり、非常に活気が高まった。

    それから2年間で一時期の高まりは落ち着いたようである。調査会社のCB Insightsが発行した2013年のレポートによれば、シリコンバレーにおいて2009年に全体の投資金額の半分程度を占めていたヘルスケア、エネルギー分野が2013年には25%程度に縮小している。

    しかし今年、米AppleがiOS8にてヘルスケア・アプリケーション「HealthKit」「Health」を導入することを発表した。これにより、再びヘルスケアに注目が集まる可能性もありそうだ。

  • まだビッグデータの利活用は積極的ではない

    目下のところ、ヘルスケアアプリやデバイスはどのような特長を持ち、どのようなデータを集め、分析されているのだろうか。

    各製品を見てみると、利用者の健康や活動に関するさまざまなデータを収集していることが分かる。活動量計であれば歩いた時間、スピード、歩数など、体温計であれば体温、睡眠チェックであれば寝返りの回数や寝言、いびきなどだ。

    いかに新しい切り口のデータを集め、利用者の関心を集める製品やサービスを提供できるか、という点もヘルスケアアプリでは重視されており、一風変わったデータが集められることも多い。

    例えば、スマートデバイス第12回「健康維持の為のウェアラブルデバイス5選」でも取り上げた「Hapifork」はフォークに加速度センサーをつけ、食事時間やフォークの上げ下げ速度を送信する製品だ。

    (出典:「HAPI.com」)

    食べるスピードがはやいとライトやバイブレーションで注意するため、ユーザーは意識してゆっくり噛んで食べるようになる。よりゆっくり食事をし、よく噛む習慣をつけることで、消化不良や食べ過ぎといったリスクを解消するのがこの製品の狙いだ。

    (出典:Quitbit

    上記写真の「Quitbit」は、喫煙習慣をトラッキングする「スマート・ライター」だ。

    このライターはiPhoneアプリと連動しており、煙草に火を付けた回数、1日に吸った本数、最後に吸った時から経過した時間などを知ることができる。Hapiforkと同じようにスマートフォン上でデータ管理したり、あらかじめアプリ上で喫煙本数を設定し、予定以上の煙草を吸おうとしても着火できないようにすることも可能だ。

    これらの製品は発想そのものは面白いが、いくつか課題もある。ひとつは収集した情報があまり医療機関にとって信頼性の高い情報になりにくいこと、もうひとつがデータがアプリ内での利用に留まり、他のアプリで活用したり、ビッグデータとして収集・分析し、医療目的で利活用するといった発展性が見られないことだ。

    上記の2製品においても、サイトの説明では集められたデータが開発元などによって収集・分析されているのか、利活用の対象となっているかといった言及は見つからなかった。

    こうした問題が起こる背景には、各ヘルスケアベンチャーなどが独自に開発していること、医学的な見地が入ることが少ないことが挙げられる。医療目的でデータを参照しようとしても、相互運用性とセキュリティの点で問題を抱えているのだ。

    相互運用を行うにはデータの項目の整合性をあわせる必要がある。同じ患者さんでもサービスA、Bで記録されたものと、病院Cで記録されたものでは当然表示されるデータの形は異なるから、そのサービスの計測方法に合わせて項目を整理するか、統一した規格が必要となる。こうした現状も相互運用の遅れにつながっている。

    また、医療情報としての信憑性を保つには、医療機器として認定されることが必要だ。数多くの被験者を通して得られた治験データをもとに診断や治療に有用であるというエビデンスを示さなければならない。

    米国では、この審査をFDA(Food and Drug Administration)が行っている。mobihealthnewsによると、冒頭で取り上げたAppleの「HealthKit」も現在FDAと交渉中であるようだ。では、医療機器としての認定を狙う「HealthKit」とは一体、どのような製品なのだろうか?

  • Appleの新ヘルスケア・アプリケーションの持つ可能性とは?

    Appleは2014年6月、iOS8向けの健康管理アプリとして、「HelthKit」「Health」の2つのアプリを発表した。2つのアプリの違いを見てみると、「Health」は個々の情報を記録し、「HelthKit」は複数のアプリの健康情報をまとめて管理できるものであるようだ。

    この2つのアプリにより、利用者は対応アプリや健康機器で計測したデータ、あるいは手入力したデータを、iPhoneやiPadで一元管理できるようになる。入力可能なデータは身長、体重、体脂肪、歩数、心拍数、血圧、呼吸数、摂取カロリー、消費カロリー、飲食物の栄養素など、広範囲にわたるという。

    また、蓄積した健康データは、各種ヘルスケアアプリ、フィットネスアプリと紐づけることができる。これまでは、各アプリごとにバラバラに保存するしかなかった健康データを統合情報として一括管理し、各アプリで利用することができるようになるのだ。なお、それぞれのアプリに対して、どのデータを共有するかは利用者が決定できる。

    これらのアプリを使って、医療機関と情報を共有するプランもある。アプリに記録された患者さんの心拍数や血圧などの健康情報を、医師側のアプリと共有することで、医師が患者さんの健康状態をより正確に把握できるようになる、とApple社は説明している。

    同アプリのテストには、FacebookやYouTubeなどの画期的なソーシャルメディア活用で、医療機関に大きな影響を与えてきた「Mayo Clinic」も協力している。また大学病院など20以上の医療施設も同アプリに賛同を示しているという。医療機関と健康情報を共有し、高度な診療や治療にも役立てていく予定だ。

    「HelthKit」と「Health」は、医療機器としての信頼性、他社アプリや医療機関ともデータを共有・活用可能な統合性など、これまでのヘルスケア・アプリやデバイスが抱えていた課題を解消した、画期的なアプリであると言えるだろう。

  • 「医療機器としてのヘルスケア製品」の展望

    (出典:flickr

    HealthKitが医療機器として認定され、医療機関や他アプリとの連携が成功すれば、医療機器として活用することを目的としたヘルスケアアプリやデバイスが続々生まれていく可能性は充分にある。

    そうした製品は、利用者の同意を得て収集されたデータを医療的な見地から分析したり、あるいは機器や情報を医療関連の用途で利活用するなどの展開も可能になる。その結果ヘルスケア・サービスの更なる充実と同時に、医療発展にもつながるはずだ。

    ヘルスケアのサービスを使って、より多くの人が気軽に健康管理できる時代が既にそこまで来ている。各企業がそれぞれに活動して集めた情報をオープンにすれば、更に自分の健康情報を知ることが出来るようになるかもしれない。そこに膨大な情報(ビッグデータ)が持つ可能性があるのだろう。

 
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