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第14回
Kinectが描く未来の医療のかたち

Microsoft社製の「Kinect(キネクト)」は、身体の動きや声に反応して作動することから、本来のゲームという用途を飛び越え、医療現場での採用・活用が見込まれる新しいシステムだ。
Kinectを活用し、革新されていく未来型の医療をご紹介していこう。

  • さまざまな可能性を秘めるKinect

    (出典:Xbox

    Kinectは、カメラと距離センサーを搭載し、コントローラを用いずに画面を操作できる、体感型のゲームシステムだ。

    センサーの前に立って動作するだけで、機器に備えられたカメラがユーザーの位置を把握し、プレイヤーの骨格の動きのモーションキャプチャーを行うため、手をかざす、腕を振る、飛び上がる、足を蹴り出す、といった直感的なプレイができるようになる。また、顔の識別や音声による操作も可能だ。

    元来はゲーム機である「Xbox 360」向けのデバイスとして、本体やゲームとともに発売・利用されていたが、2012年2月には、Windowsパソコンで自由に開発できる「Kinect for Windows」も発売されている。

    Kinectの大きな特長は、キーボード、マウス、コントローラといった専用の入力機器を使うことなく、人間の体の動きによってさまざまな機器を操作できることにある。その利便性から、ゲームという範疇を超えて、医療や障害者の支援用途での活用も見込まれるようになった。

  • 活用事例1:Kinectを使った自閉症児のセラピーや早期発見

    (出典:Lakeside Center for Autism

    Kinectの公式サイトでは、医療現場での活用事例がいくつか紹介されている。その1つが、米シアトル州のLakeside Center for Autismの事例だ。

    アメリカの子供のうちおよそ100人に1人が発達障害に該当すると言われており、発話の遅れや社会活動がうまく行えないなどの問題がある。同センターではこのような自閉症児のプレーセラピーのセッションにKinectを活用している。

    手足や身体全体を動かすことで、画面上でゲームのアバターが動くので、画面を観察しながら身体を動かすため、自閉症児の身体と意識に良い影響をもたらすことを目的としている。

    Kinectのセラピー用途の活用例としては、他にアルコール依存症の患者やPTSD患者の集団セラピー、運動機能のリハビリテーションなどがある。カナダのBloorview Research InstituteでKinectを使ったリハビリ用ゲーム開発を行うElaine Biddiss氏は、リハビリ用途でKinectを活用するメリットをこう語っている

    「リハビリテーションは何度も同じ事を繰り返ししないといけないので、子どもたちが退屈してしまいがちです。でも、成果やポイントが得られるゲームであれば、リハビリも楽しんで行うことができる。ゲームは子どもたちが治療に協力してくれる素晴らしい方法と言えるでしょう」

    自閉症児を早期に見極めるための試みもなされている。米ミネソタ大学の小児発育研究機関は、1つの部屋に3~5歳の子どもたちを集め、その動きを複数のKinectを用いて検知した。

    シルエットや服装の色により、子どもの1人1人を識別して動きを追尾。そして活動の様子を記録して分析し、部屋の中にいる子どもたちの平均と比較する。自閉症の徴候となる落ち着きのなさ、動きの少なさを特定し、専門医に診てもらって最終的な診断を下す、というやり方だ。

    子どもが幼いときに障害の兆候を見極めるのは難しい。通常は子どもが遊んでいる様子を写したビデオをベテランの医師が判断するというやり方を取るが、時間やコストがかかるのが難点だった。この試みは、こうした時間やコスト面の問題を解消するという狙いがある。

    また、重度の身体障害を持つ人向けの活動支援システムの開発も行われている。

    東京大学先端科学技術研究センターと日本Microsoft社で共同開発された「OAK」は、Kinectを使った重度障害者活動支援システムだ。

    同機器は障害を持つ人が示す、指先や腕の動き、上半身の動き、口の開閉、まばたき、顔の表情といった意思表示を読み取り、スイッチのオンオフやその動きに応じたアクションを実行することができる。

    そのため、わずかな動きだけでパソコン内のアプリケーションを操作したり、周辺機器と接続することで照明器具や家電の操作も可能になるという。

  • 活用事例2:Kinectを利用した外科手術

    (出典:flickr

    Kinectは外科手術にも利用されている。カナダのSunnyBrook health science centerでは、University of Torontoと協同してKinectを用いて手術現場に導入した事例がある。同例では執刀医が減菌領域内で画像診断装置を自ら操作して、外科手術を行った。

    事前にCTやMRI画像を用いて治療計画を立てていても、実際の手術時に再度確認をとりたい場合もある。その際、従来では、DICOM画像を表示する端末を助手が操作するか、執刀医が滅菌手袋をとり、術野を離れて操作するなどの方法を採っていた。

    そのため時間がかかる上、術野に何らかの形で菌が侵入する可能性があり、執刀医は術中のリズムが崩れストレスを感じることがあった。

    しかし、Kinectを使えば、約2m弱の距離以内なら、執刀医が手をかざすなどの動作を行うことで画面を操作できる。清潔な状態のまま画像操作が行えるため、余計な手間に時間を掛けることなく、手術に集中することができるのだ。

    日本でも外科手術にKinectの導入が進められている。東京女子医大が日本マイクロソフトと協同開発した「Opect」が製品化され、ニチイ学館が医療機関向け事業で提携し、50万円程度で販売を行っている。

  • Kinectの可能性

    (出典:flickr

    近年では似たようなモーションキャプチャー技術を用いたデバイスとして「Leap Motion」があるが、基本的には手の動作を観察するセンサーデバイスであり、Kinectの方が射程距離が長く、広範囲で利用できる。

    また、昨年のE3(Electronic Entertainment Expo)について報じたNeowinの記事によると、最新版のKinectのセンサーは非常に優れており、骨格と顔のわずかな動きによって心拍数や呼吸数を計測することもできるようだ。

    Kinectに関する外科手術の事例はここ2〜3年内の記事ではほとんど見ることができなかったが、Kinectの機能が向上することで、再び活用事例が増え、導入が進むかも知れない。

    Kinect自体は数万円程度でXboxのWebサイトで購入できる。個人で専用端末を用いてゲーム感覚でフィットネスや簡単なセラピーなどに利用することも可能だろう。

    実際に医療関係者が現場で活用する場合はどうだろうか? 外科手術は精密な動きが求められるため、ノウハウが行き渡っていない現在での活用は難しいかもしれない。

    一方、「活用事例1」で紹介したような、機器の操作が大変な患者さんの操作の補助目的、あるいはより効果の高いリハビリテーションを行うためのゲームといった用途では比較的導入・運用しやすく、また患者さんがメリットを享受できる可能性も高い。

    患者さんの活動支援・補助目的の用途で見たとき、Kinectは非常に面白い機器と言えるのではないだろうか。

 
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