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第4回
ビッグデータは患者さんの未来を予測する?

現在、多くの業界でビッグデータの分析が進められている。
顧客層を掴み、それぞれのニーズを知るなどの目的だが、ヘルスケア業界でも危険要因を予知するなどの目的でビッグデータのデータ解析が進められているという。
今回は、「疾病の予防/予測」というアプローチに注目し、ビッグデータについて考えてみよう。

  • (出典:flickr

    携帯電話、コンビニエンスストア、自動車メーカーなど、現在ではあらゆる業界でビッグデータが用いられはじめている。顧客から集めた情報を整理・保管することで得られるもっとも大きな効果のひとつが、それらのデータを「分析」できることにある。

    コンビニチェーンのローソンでは、ポイントカードのデータを使って、それぞれの商品がどのような層に買われているのかを収集し、分析しているという。

    4000万人が利用しているこのポイントカードは、利用時に年齢・住所などを登録する。それぞれの情報を属性ごとに分類できるため、カードの利用で販売データを集めることで、どの商品を誰が買ったかを掴めるようになったのだ。

    この方式で、同店でもっとも人気の商品のコロッケを調べたところ、最大のリピーターは、60歳以上であることが分かった。その結果、シニア層を狙う店舗ではコロッケを大量に並べるようになったという。

    上記はデータ解析を顧客層の特定に用いた例だが、ヘルスケア業界では、医師が診断時に危険要因を見逃さないよう、データ解析を導入するなどのビッグデータの活用例が増えている。

    今回はそうした試みの一例として、バイオバンクが収集・分析した情報の共有、自分自身の電子カルテの閲覧、ウェアラブルデバイスへの記録の蓄積などをご紹介しよう。

  • EHR(医療健康記録)への自由なアクセス

    (出典:flickr

    患者さんが、病院側が持つ情報にアクセスできるようになると、一次予防の段階から自分の身体の情報を知る機会が増える。これらはEMR(Electric Medical Record)、EHR(Electric Health Record)などと言われる。

    EMRは医療機関内の情報の電子化、EHRは電子カルテを中心とした医療情報をネットワーク経由で複数の医療機関で情報共有する仕組みのことだ。EHRの普及により、かかりつけの病院にしかなかった個々の患者さんの投薬情報や検査データなどの医療情報を、どの医療機関でも見ることができるようになる。

    以前の記事でも紹介した、ロサンゼルスの病院とボストンの病院の協同研究がそのよい例だ。

    患者さんのバイタルデータをリアルタイムでモニタリングしている医療機関では、患者さんの容態悪化にいち早く気づくようになり、患者さんの平均入院期間、治療期間を短縮することに成功している。これはネットワーク経由で情報共有ができるEHRならではの解決策だ。

    日本では制度面や運用する医療機関側の問題があってなかなか進んでいないが、米国の病院ではオバマ大統領主導の政策の元、EHRの導入が全国的に進められているという。

    こうしたEHRへの患者さんのニーズは日々高まっている。

    Accentureの健常者や慢性疾患に罹患している人を含めた約2000人の調査によると、うち87%が「自ら医療記録をコントロールしたい」と回答。一方で、55%の回答者が「現在はそれらにほとんど、もしくはまったくアクセスできない状態」と答えており、本格的な導入が求められている。

  • ウェアラブルデバイスによるデータ記録

    患者さんの中には、普段の生活を紙に記録し、病気の状況や健康状態の管理をしている人がいる。こうした紙につけた記録が貴重な医療情報になったというケースもあるそうだ。

    このような記録をオンラインで管理・共有できれば、より多くの患者さんや医療従事者が、病気の治療や健康維持の方法を知ることができるようになる。PCやスマートフォン上のアプリで記録し、その情報を第三者が分析することで、健康管理を支援することができるのだ。

    この分野で特に有望なのがウェアラブルデバイスだろう。リストバンド型の「Fuelband」や「Fitbit」は歩数、距離、消費カロリー、睡眠といった健康データを計測し、スマートフォンとBluetooth通信で同期してクラウド上に健康データを蓄積・記録するといった機能をもっている。

    蓄積された健康データは専用のアプリケーションから手軽にチェックできるほか、つけて寝るだけで眠りの状態(時間/サイクル)を測定する機能もあり、中には医療従事者からのアドバイスを得られるものもある。

    運動中や日常生活でこれらの機器を身につけることで、自動的に日頃の運動量や食事、睡眠量といった記録を行い、手入力の手間を省くことができるようになるのだ。

    デバイスのセンサー機能がより高度になれば、より非侵襲的な形でバイタルデータを知り、一次予防につなげることもできる。

    例えば、今年の秋に発売を予定している「AIRO」(国内未承認)(上写真)は、専用の分光器により血中に含まれる代謝産物を認識し、カロリーやタンパク質、糖質などの摂取量を計測することができるという。

  • 生体試料を用いたデータバンク

    (出典:flickr

    生体試料の情報をより多くの人から集め、分析することで、不特定多数の人間に慢性疾患に関係する情報を紹介することができる。バイオバンクなどはその最たるものだ。

    バイオバンクとは、血液や尿、身体の組織の一部を収集・保存し、これらを研究することで、病気の原因究明や新しい治療方法、新薬の開発など未来の医療のために役立てる取り組みである。

    「バイオバンク」として世界で最も長い歴史を持っているのは、英国の政府公認の非営利団体「UK Biobank」だ。

    同団体は英国全土から50万人に事業に参加してもらい、40歳から69歳までの男女の生活習慣や病歴などの健康情報や血液、尿、唾液などの生体試料を収集・保管し、遺伝子解析することで、慢性疾患に関する有益な情報提供を行っている。

    たとえば、メニエール病、聴覚異常、肺疾患などについて本団体が研究結果内容を発表しており、専門家の研究利用に対しても情報提供している。バイオバンク事業は長期的な取り組みであり、更に調査研究が進むことで慢性疾患の治療や予防に必要な知見が蓄積されていくだろう。

    また遺伝子解析の取り組みも既に世界的に広がっており、日本でも文部科学省の「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」において約20万人の試料が収集され研究利用されている。

    (出典:23andme

    また米国の「23andme」は99ドル(約1万円)で250の疾患について遺伝子検査を行えるサービスを展開して、話題を呼んだ。(FDAの行政指導が入り、いったんサービスは中止となった)ゲノム解析は民間企業でも取り扱い、個人の手が届くレベルにまで安価になってきているのだ。

    つい最近、米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーが乳がん発症を予防する為に予防的乳房切除を行った。その判断の根拠となったのは、BRCA1という遺伝子異常である。

    この遺伝子異常を持っている人は高い確率で乳がんを発症する。アンジェリーナ氏は、肉親を同じ遺伝子異常によって亡くしていたのだという。遺伝子の情報を知っていれば、将来罹患する可能性のある疾患を未然に予防しやすくなるかもしれない。

  • 患者さんにとってより身近となる健康情報

    (出典:flickr

    医療情報がよりオープンになればなるほど、個人情報に基づき患者さん1人1人がアクセスできる医療が近づいていくことになる。

    非侵襲的な方法で人々の身体情報が整理、分析されることで、健康情報はより患者さんにとって身近になる。健康情報を利用して患者さんがより健康な生活を送ることができれば、一次予防や健康管理を簡単に行えるようになるだろう。

    データの長期利用には、第三者ベンダーによる相互運用性・データセキュリティの管理などの問題があるが、医療情報がより多くの人にとってオープンとなる未来はそう遠くないかもしれない。

 
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