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第2回
海外の医療現場でビッグデータはどのように活用されているのか?

海外では医療現場でビッグデータをうまく活用しているところが増えている。
具体的にどのようにして使われているのか?またどんなリスクがあるのか?
その実像を探る。

  • (出典:flickr

  • 海外の医療現場で進むビッグデータ活用

    医療現場では電子カルテやCT、MRIのデータが膨大に蓄積されている。これらの医療ビッグデータには、どんな人がどんな病気にかかっていて、どんな診断を受けてきたのかが詳しく記録されている。

    こうした膨大な患者さんのデータを活用することで、患者さんの病気を未然に防ぐことや、病気を早く治療することができるようになる。

    医療ビッグデータ活用の成功事例としてまず紹介したいのは、米国IBMとカナダのオンタリオ工科大学協同の新生児の異常事態発見システムの開発の事例だ。

    これまで紙ベースだった新生児の診療情報をオンライン上で分析し、センサーからリアルタイムで送られる新生児のバイタルデータと高速に比較、分析することで、従来よりも6〜24時間も早く新生児の異常容態を発見するシステムの構築に成功した。

    このように患者さんのデータを紙からデジタルに置き換えるだけでなく、高速かつ頻繁に処理、分析できれば、新たな治療の研究につなげることや、患者さんや医療関係者に対して適切なアドバイスを提供することが可能になる。

    本記事では、以下に海外医療現場におけるビッグデータ活用事例を紹介していこうと思う。

  • 海外ビッグデータ活用事例①「救急患者の入院期間の短縮化」

    (出典:flickr

    医療ビッグデータを現場で活用する方法が確立されてくるにつれ、患者さんの状態を病院内のスタッフがリアルタイムで把握できるようになり、患者さんの入院期間の短縮につながっている。実例を見てみよう。

    ロサンゼルスの病院とボストンの病院の協同研究によると、患者さんの心拍数や呼吸を継続してモニタリングしリアルタイムで患者さんの容態悪化を把握できるようになった医療機関では、患者さんの異常事態に気づくのが早くなり、患者さんの平均入院期間を9%ほど削減することに成功した。

    またリアルタイムで患者さんの状態悪化を発見できるようになったことで、集中治療室に運ばれる患者さんの治療期間の50%ほど短縮された。

    この事例のように、救急医療によるビッグデータ活用は大きな効果が期待できる。特に、患者さんの状態をリアルタイムでモニタリングすることは、今後ますます需要が高まると言われ、その市場は2020年までに51億ドル(約5100億円)になると予測されている。

  • 海外ビッグデータ活用事例②「調剤薬局におけるオーダー業務の効率化」

    (出典:flickr

    これまで薬剤投与記録は紙媒体で記録されており、処方箋が病院へ紙の記録として送られ、看護師がそれを紙のカルテに記録していた。しかし、手書きの文字が判読しにくい為に、人的ミスが多く発生し時間もかかっていた。

    フロリダのある病院では、薬のオーダーシステムを自動化することによってこの問題を改善した。

    同病院はEMR(電子診療情報)の導入により、医療スタッフが患者さんに処方した薬の記録がリアルタイムで更新されるようになり、病院と薬局間で行っていた紙の書類での確認と記録の手間がなくなった。

    これにより調剤師は薬局業務から解放され、かわりにICUや救急科をはじめ、ほぼ全ての科に配属されるようになり、患者の調剤について医療スタッフと直接協力出来るようになった。

    今後この病院では現在の取り組みを横展開する為に系列病院に新たに外来薬局の設立や、退院前に電子処方箋を選択した薬局に送信できる仕組みを構築していくそうだ。

    このように業務システムを導入し膨大な医療データを自動処理することで、医療現場の業務は劇的に改善することが出来るのだ。

  • 海外ビッグデータの活用事例③「患者さん同士の難病の情報共有で医療技術を向上」

    (出典:flickr

    米国の患者体験共有サービス「Patientslikeme」は、患者さんが自らの病気について情報を共有できるサイトだ。同サイトは集められた患者さんの、医療データをもとにして、医療研究につなげる活動を行っている。

    20万人以上のユーザーが「Patientslikeme」に毎日膨大な医療データを投稿し、ユーザー自身のバイタルデータをはじめ、かかっている病気や現在服薬している薬、どの程度重度かなどを頻繁に共有している。

    こうして共有される記録は医療ビッグデータと呼べるほど膨大なデータ量と更新頻度となっている。これらのデータは40以上の調査研究と100万以上の治療や症状のレポートに用いられている。

    例えば、同サービスは、サービスに書かれた患者の毎日の記録から、筋萎縮性側索硬化症の治療にリチウムは全く効果が無いことを証明した。

    同じ結果を得る為の臨床試験は複数の医療機関が行っており、同様の結果を発表してきたが、それらの臨床実験を実施するには約1000万ドルのコストが発生していた。

    「Patientslikeme」に集まってくる、患者さんのデータを用いれば、より低コストで治療法の検証を行うことが出来る。

    現在、Patientslikemeでは、「Data for Good」というキャンペーンを行っており、ユーザーからデータの提供を積極的に募っている。

    同サイトは今後も蓄積された患者さんのデータをリアルタイムで分析し、医療研究を進めていく予定だ。

  • 医療ビッグデータ活用の課題は?

    (出典:flickr

    一方でビッグデータや電子カルテシステムを導入する際のリスクもある。代表的なものはセキュリティ上の問題だ。

    不特定多数の人が医療データにアクセスしやすくなり、医療機関のネットワークが攻撃を受ける危険性が増してしまう。

    事実データセキュリティの調査機関「Ponemon Institute」が90の米医療機関に対して行った2012年の調査によれば、94%の医療機関が過去2年間にハッキング侵害を受けていた。

    例えば2013年12月に、テキサスの病院でセキュリティ侵害があり、患者さんや医療従事者を含む40万5000件の情報が不正アクセスされた。

    それらの情報には患者さんや医療従事者の氏名、生年月日だけでなく、個人の銀行口座のデータも含まれていた。

    同病院はハッキングが発見されてすぐに、医療データを保管するサーバーは停止したが、病院の信頼は大きく損なわれた。

    上のようなハッキングにより、米国の医療業界は多額の被害を被っている。ハッキングの主な理由は、医療画像撮影機やインスリンポンプの計測器など、現場にある医療機器がセキュリティ対策されていないことである。

    そこで、オバマケアの政策の1つ「Meaningful Use」においても、医療機関のITセキュリティに対して一定の基準を設けて、ハッキング対策を義務付けている。

  • ますます問われるリスクへの対処

    今回紹介したように、医療現場においてビッグデータが活用されることで、患者さんの容態がリアルタイムで確認することが可能となり、医師や調剤師など医療現場で働く人達の労働環境が改善される。

    また、前回述べたように、スマートフォンやウェアラブルデバイスなど個人で健康管理が簡単に出来るようになれば、医療現場の負担が軽減され、本当に助けを必要としている人に医療サービスを提供出来るようになる。

    一方で、医療ビッグデータを扱う上で、ハッキング被害に合うリスクは大きい。上記で紹介したように、患者さんの大切なデータの消失や盗まれるケースもあり、その被害額は膨大なものになっている。

    医療ビッグデータを適切に活用する為には、ハッキング対策をきちんと行った上で、専門家を病院のスタッフとして短期的な常駐や、コンサルテーションを受けるなど、セキュリティ対策に詳しい人物の手を借りるべきだ。

 
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