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第7回
医師と患者さんが繋がるQ&Aサービス「Health Tap」

一般ユーザーの健康に関する質問に現役医師が競って回答をつける米国のQ&Aサイト「Health Tap」。
今年ついにユーザー数が100万人を突破した、その人気の秘密と医療への影響をレポート。

  • 個人が疑問や悩みを匿名で投稿し、不特定多数のネットユーザーの知恵を借りられるサイトは数多あるが、中でも2009年に創設された「Quora」は、米国で一定の地位を築いている。

    Quoraは他のQ&Aサイトよりも、弁護士や技術者や医師など、さまざまな分野の専門家が実名で参加しているため、質の高い回答が期待できると言われている。

    一方、専門家が自分の分野に関する知識を無料で提供するのには、ボランティア精神だけでなく、同業者への競争意識や知名度を高めるためのセルフプロモーションの意図などもあるようだ。

    この形式を踏襲し、さらに医療に特化したQ&Aサイトが、2010年にカリフォルニア州でオープンした「Health Tap」だ。

    同サイトは現役医師が回答者として全米から参加し、ユーザーから寄せられる質問にボランティアで回答してくれるため、「Quaraの医療限定版」とも呼ばれている。

  • 質問者は匿名、回答する医師は実名

    Forbesによれば、Health Tapのユーザー数は今年4月に100万人を突破した。医療系サイトが数ある中で、これは快挙だ。人気の最大の秘訣はやはり現役の医師に24時間いつでも質問をオンラインで気軽に投稿できるところにある。

    質問は1件につき150文字までは無料。150文字を超える質問を投稿するには、99セント(約100円)をチャリティに寄付する必要がある。

    投稿した質問は他のユーザーにも公開されるが、質問者の氏名や個人が識別されるような情報は一切表示されないので、面と向かっては訊きにくいことでも相談しやすい。

    一方で、回答する医師の側は実名と顔写真が必ず表示される。回答者になりたい医師は、事前にHealth Tapに申し込んで承認を受ける必要がある。現在、登録している医師の数は約3万7,000人。

    医師が積極的に回答者となる理由の1つは、「インターネット上に自分の存在を確立できること」にあるようだ。

    個人でサイトやSNSを始めようとすると自身で準備や管理を行う必要があり、医師の業務と両立させるのはなかなか難しいが、空き時間を利用して自分の選んだ質問にだけ回答すればよいHealth Tapは、医師が気軽にブランド力を高める場として利用価値が高い。

    モバイル機器の普及で、医師の参加はさらに容易になった。スマートフォンやタブレットを使えば、診療や移動の合間にサイトをチェックして回答を投稿することもできる。

    (出典:「Docs Love HealthTap」)

    回答しようと思った質問にすでに他の医師が回答を投稿していた場合、その回答の横にあるボタンをクリックして「賛成票」を投じてもよいし、別途自分の回答を投稿してもよい。

    例えば「1型糖尿病と診断された6歳児にインスリン療法を受けさせず、食事療法に専念してもよいでしょうか?」という質問には、4人の医師が回答を寄せ、全員が「それは危険ですよ」と答えている。

    その中で、以下のVered D. Lewy-Weiss医師の回答がインスリンを受けなかった場合に起きる糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の危険についてもっとも丁寧に説明を加えているため、他の医師たちから一番多い、19票もの賛成を集めて、トップに表示されている。

    他の医師からの賛成票はその医師のポイントとして加算されていき、他の指標と合計してその医師の能力と信用を表す「DocScore」という値に反映される。つまりHealth Tapは、医師同士で互いを評価しあうシステムになっているのだ。

    個人的に親しい付き合いのある医師の回答には、その回答の質にかかわらず賛成票を投じてしまうこともあるのではないかと気になるが、回答した医師だけでなく、その回答に賛成票を投じた医師の氏名と顔写真も表示されるシステムになっているため、そのような行動は取りにくいという。

  • 現代医療で希薄になった医師と患者との個人的な繋がりの復活を目指す

    Health Tapは、現代の米国で体調を崩したとき、自分で療法を調べたり病院にかかろうとしても、さまざまな障害があるのだと述べる。

    たとえば頭痛になって、その原因を調べようとしてパソコンで検索したとする。けれども、今すぐ頭痛を和らげるための方法が知りたいのに、脳腫瘍の情報に行き着いたりする。パソコンやネットは、まだまだ医療関連の知識を調べる用途に対応できていないのだ。

    仕方なく病院に行ってみると、今度は受付で長い行列待ちを強いられる。自分の番が来ると何枚もの書類への記入を求められ、やっと診察してもらえると思ったら、医師はほんの数分診ただけで処方箋を書き上げてしまう……。

    (出典:YouTube「The Health Tap Experience」)

    Health Tapは以上のような状況を改善し、医師が地域の患者を往診していた時代には存在していたはずの、医師と患者間の個人的な繋がりを復活させることを目標にしているという。

    同サイトでは開かれた場所で医師達に相談できるだけでなく、「この先生はとても信頼できる」と感じる医師が見つかったら、小額の料金を支払って非公開に相談メールをやり取りすることも可能だ。

    また、登録している医師を地域別に検索できる機能もあるため、自分の地域で開業している医師の評判をHealth Tapで確認してから、その医師に実際に診察してもらうために予約を取るという利用法もある。

  • SNSは予防医療の不足を補う切り札になれるか?

    7月28日のSankei Bizは糖尿病と診断された経済アナリストの森永卓郎氏の次の言葉を紹介している。

    「自分が糖尿病になるなんて考えたこともなかった。医療費は毎月の固定費で節約できない。もっと早く病気の怖さや経済的負担が大きいことに気づけばよかった」

    糖尿病は「サイレントキラー」という異名で呼ばれるように、痛みを伴わないため、罹患していても気づかず、治療が遅れ、四肢切断や失明、腎疾患、心疾患、脳卒中などの合併症の発症につながることが往々にしてある。

    森永氏は現在、合併症予防のためのインスリン療法のために毎月1万~1万5千円を負担しているという。だが合併症を発症すれば、その金額ではとてもすまない。

    「桁違いに医療費が増え、国民全体の負担になる。僕もそうだったが、糖尿病がどんな病気か知らない人は少なくない。血糖値が高いと言われた人は医師に相談して治療を始めた方がいい」

    「国民の6割が肥満」といわれる米国でも森永氏の意見に同意する人は多いはずだ。今年2月のオンライン調査では、「米国の8人に1人が2型糖尿病と診断されている」という結果が発表されている。

    米国をはじめとした先進国においては、高齢化や成人病の増加は、医療コストの増大と深く関連している。オバマ大統領悲願の国民健康保険を実現するためには、医療費を押し上げる元凶のひとつである成人病患者の数を減少させる必要がある。

    それには予防医療が効果的なのだが、医療費が高いために潜在患者が病院を訪れることができず、予防医療の恩恵を受けられないという悪循環が生じている。

    Health Tapのように医師と患者がバーチャルな世界で繋がるSNSサイトは、現実の診療に取って代わることはできないが、上記のような悪循環を打ち破るための医療教育の場としても今後注目が集まっていくだろう。

 
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