文字サイズ

起業医が教える“人を動かす”プレゼン
第2回 プレゼンは「想い」があってこそ 第2回 プレゼンは「想い」があってこそ

 いわゆる「プレゼン塾」、「プレゼン必勝法」といった話をよく聞いてみると、スライドの見せ方、作り方、話し方などのテクニックにばかりフォーカスしているものが多く見受けられます。もちろん、テクニックは大切です。「Death by PowerPoint」といった言葉に代表されるように、プレゼンのソフトのフォーマットのまま箇条書きで文字や数字ばかり、論文からそのまま転載したようなビジーなスライドは見にくくなり、その結果として退屈なプレゼンになりがちです。
 また、スライドだけで説明が完結できてしまえば、そもそもプレゼンをする必要がありません。「見やすい」「わかりやすい」スライドに加え、ストーリー、言葉遣い、演出、聴衆とのコミュニケーションなどが絡み合うことで、はじめて“プレゼント”になります。

 スライドや演出等は、あくまでプレゼンを構成する要素の1つでしかありません。では、主役は何なのでしょうか? 私は、人、つまり“プレゼンターと聴衆”であると考えています。
 そして、プレゼンにあたって、明確にしておくべきことは、プレゼンター自身が聴衆に伝えたい「想い」です。広い意味でプレゼンは「他人と自分の想いを共有すること」と言えるでしょう。

 このように考えるようになったきっかけはいくつかありますが、1つは私が生まれて初めて海外で英語の発表を行った、開催された国際学会でのことです。自分が長年研究してきたテーマを発表するために準備万端整えて登壇したのですが、緊張しすぎてしまい、発表も質疑応答もしどろもどろになってしまったのです。その時、座長から指摘された言葉は今でも忘れられません。

「先生が伝えたい、研究の目的はなんですか?」

 それまでは、プレゼンといえば、学会においても、論文のままの形式で発表するものだというイメージしかありませんでした。しかし、この言葉を聞いて、「そもそも私はこの研究成果を数多くの医師に役立ててもらいたくてプレゼンしに来たのだ」と気付かされました。前回も触れたように、プレゼンの醍醐味は、自分の研究成果を発表し、参加者からもっと教えてほしいと言われたり、共感してもらい、喜ばれたりすることと、それを実践した結果を後日フィードバックしてもらえることにあります。

 ただし、どんなに優れた研究や発表内容でも、伝わらなければもったいないと思います。それには聴衆の目線で、わかりやすく伝えることが重要です。これは、日常臨床で患者へ説明、納得を得て同意する「インフォームド・コンセント」と同様に重要だと思います。

 私はこれまでの臨床やビジネスの経験から、「コミュニケーション自体がプレゼンの基本」と考えるようになり、常に相手に想いをわかりやすく伝えられるよう、頭を整理するように習慣づけています。これが「プレゼン思考」です。現状の課題(Why)や自分のアイデア(How)、相手のメリット(What)、そして未来への格言(Quote)など、対話のなかで常に整理しながら頭の中にスライドを作っているようにします。こうして、「想い」を共感してもらえるような思考を心がけておくと、より良いコミュニケーションがうまれます。

 プレゼンのテクニックを身につける以上に、この「プレゼン思考」を日常のコミュニケーションの中で活かすことが重要ではないでしょうか。シチュエーションごとに意識を変え、相手や目的に応じて伝え方を工夫することで、自分の「想い」が伝わりやすくなります。それはまた、「おもてなし」や「ホスピタリティー」の精神に通じるのです。

杉本 真樹 先生

参考文献:杉本真樹「医療者・研究者を動かす インセンティブプレゼンテーション」, KADOKAWA, 2014

杉本 真樹 先生

講師プロフィール

杉本 真樹 先生

帝京大学冲永総合研究所 Innovation Lab室長 特任教授

1996年、帝京大学医学部を卒業。国立病院機構東京医療センター外科、帝京大学ちば総合医療センター外科、米カリフォルニア州退役軍人局パロアルト病院客員フェロー、神戸大学大学院医学研究科消化器内科特務准教授などを経て現職。日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本内視鏡外科学会技術認定取得者、日本コンピュータ外科学会評議員、日本肝胆膵外科学会評議員、日本腹部救急医学会評議員など。Holoeyes株式会社の共同創業者・取締役兼COOとして、臨床現場におけるVR技術の活用を推進している。2014年、米Apple社Webにて世界を変え続けるイノベーターに選出。 2017年、Microsoftイノベーションアワード優秀賞およびWIRED Audi イノベーションアワード受賞。TED翻訳者、各地のTEDxスピーカーとしても活躍中。

 
SAJP.eMR.20.08. 0002