文字サイズ

ALS海外文献

臨床・診断

筋萎縮性側索硬化症類似症候群の早期診断:現在の臨床診断基準の賛否両論 Early diagnosis of amyotrophic lateral sclerosis mimic syndromes: pros and cons of current clinical diagnostic criteria.

Cortés-Vicente E, et al.
Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener. 2017; 18: 333-340.

抄録・解説 LTTプログラム委員 佐々木彰一先生

背景

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は臨床的に不均一な発症様式をとる神経変性疾患であり、進行してからの診断は容易であるものの、発症時に診断するのは難しい。疾患特異的な診断マーカーはなく、主に上位運動ニューロン(UMN)・下位運動ニューロン(LMN)徴候と疾患進行の性質を基にした臨床診断基準(改訂El Escorial基準)が確立されており、診断の確実性を反映した分類が可能である。しかし、患者が特異的な治療を受けるには早期の正確な診断が必要であり、それは臨床試験での正確な患者登録という点でも重要である。また、ALSは進行性で重い障害が起こる致死的疾患であり、誤診の影響は少なくない。ALSの診断にあたっては、さまざまな類似症候群があることを考慮する必要がある。当初ALSと診断されても、そのうち10%程度は別の診断になると考えられている。そこで本研究では、ALSの疑いとして神経筋疾患の高次医療施設に紹介されたもののALS類似症候群であった患者の頻度と臨床的特徴について検討し、鑑別に役立つ要素を探った。

方法

Sant Pau運動ニューロン疾患(SP-MND)登録には、2004年から一般の神経内科医より当専門クリニックに紹介された全ALS疑い例が、包括的かつ前向きに取得したデータとともに登録されている。本研究では、2004年1月1日から2015年12月31日までに紹介された症例の、当クリニックにおける最終的な診断やその経緯を確認し、別の診断が示唆された要因を明らかにした。

結果

当該期間に登録された328例中、追跡脱落例など14例を除外し、314例を解析対象とした。発症時の臨床表現型は、UMN徴候とLMN徴候があるALS 217例、UMN徴候のみの原発性側索硬化症(PLS)24例、脊髄性LMN徴候のみの進行性筋萎縮症(PMA)49例、延髄性LMN徴候(球麻痺症状)のみの進行性球麻痺(PBP)24例であった。
精査および経過観察の結果、ALS 217例中6例がALSを否定される一方、PLS 24例中5例、PMA 49例中28例、PBP 24例中22例がALSと再診断され、最終的に266例がALSと確定診断された。PLS24例中5例はALSに、3例は他疾患に変更され、残りの16例がPLSの診断を維持した。また、PMA49例中28例はALS(うち1例はSOD1変異による家族性ALS、7例はFTD/ALS)に、9例は他疾患に変更され、残りの12例がPMAの診断を維持した。PBPでは24例中22例がALSに、2例が他疾患に変更された。したがって、当初のALSを否定された6例と他疾患に変更された14例、合わせて20例(6.4%)がALS類似症候群とみなされた。ALS類似症候群において発症時に最も共通して認められた臨床的表現型はPMAであった。
ALS類似症候群20例中18例は初回受診時の検査で鑑別が示唆された。20例中17例ではALS以外の診断が確定したが、さまざまな疾患が含まれ一様ではなかった(多巣性運動ニューロパチー、重症筋無力症、多発性硬化症、大脳皮質基底核症候群、頸椎性脊髄神経根症、封入体筋炎、球脊髄性筋萎縮症、AAA症候群、進行性多巣性白質脳症、上腕神経叢障害/胸郭出口症候群、ミオチリン性筋原線維ミオパチー、脂質蓄積症)。鑑別につながった主要な所見は電気生理学的検査によるものであり、50%は改訂El Escorial基準を満たしていなかった。

考察

本研究ではALSの疑いのある314例中20例(6.4%)がALS類似症候群と診断され、日常診療におけるALSの誤診は今なお共通の問題である。ALS類似症候群は非典型的臨床徴候および電気生理学的検査に基づいての早期鑑別が可能であり、その45%は適切な治療により改善していることから、正確な早期診断の重要性が示唆される。改訂El Escorial基準がLMN徴候のみのALS疑い例(clinically supected ALS)を分類から除外したのは支持できる。当初はPMAの表現型であった49例は、半数以上が追跡中にALSの基準を満たしたが、9例はALS類似症候群として別の診断がなされた。しかし、ALS疑い例を除外したことにより、一部のALS患者は診断が遅れることになる。この点についてはさらに診断分類を改訂する必要がある。また、診断を確定できなかった3例中2例は、UMN徴候およびLMN徴候がありながら、脳MRIで重度のびまん性白質脳症が認められ、特異的な診断に至らなかったが、1例は剖検でALSが確認された。このように、臨床診断基準での分類は誤っていなかったがALSの診断が難しい場合もあり、ALSに特異的な診断バイオマーカーの必要性が示唆される。

SAJP.RIL.19.08.2147