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ALS海外文献

臨床・診断

筋萎縮性側索硬化症における脊髄内神経幹細胞移植: 第Ⅰ相臨床試験成績 Intraspinal neural stem cell transplantation in amyotrophic lateral sclerosis: phase 1 trial outcomes.

Feldman EL, Boulis NM, Hur J, Johe K, Rutkove SB, Federici T, Polak M, Bordeau J, Sakowski SA, Glass JD.
Ann Neurol. 2014;75:363-373.

抄録・解説 LTTプログラム委員 尾野精一先生

背景

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンの変性・脱落によって生じることから、これを神経幹細胞移植によって治療する試みがなされている。2009年、米国食品医薬品局(FDA)はそれまでの動物モデル実験などを踏まえ、ヒト脊髄由来の神経幹細胞(HSSC)をALS患者の脊髄内に移植する初めての第Ⅰ相オープンラベル臨床試験(NS2008-1)の実施を承認し、その実現可能性と安全性が検証されることになった。HSSCを腰髄(L2-L4)に移植した最初の12例での検討では、特に重篤な有害事象は認められなかった。そこで、呼吸に重要な横隔膜機能に関連する頸髄(C3-C5)への移植も6例で実施され、延べ18例での試験が完了した。このうち3例は腰髄への移植後に頸髄へ移植している重複例である。前臨床試験では脊髄の複数個所への移植が有望な結果を示しており、ヒトでも同様の治療の実現可能性が検証された。

方法

3例ずつ以下の6段階で治療に伴うリスクを上げながら、HSSC(NSI-566RSC)を1ヵ所あたり10万個の用量で注射した。まずは歩行不能例を対象として腰髄の片側5ヵ所(A1群)と両側10ヵ所(A2群)、次に歩行可能例を対象として腰髄の片側5ヵ所(B群)と両側10ヵ所(C群)、さらに歩行可能例を対象として頸髄の片側5ヵ所の注射を新規の3例(D群)と、すでに腰髄に両側10ヵ所注射済みの3例(C群=E群)で実施した。治療には独自の脊椎固定注射装置を使用し、術後は複数剤による免疫抑制を生涯続けることとした。

結果

HSSC移植の外科処置に関しては、腰髄への注射だけでなく、頸髄への注射においても、周術期および術後の合併症が最小限に留められ、良好な忍容性が示唆された。また、いずれの群においても、HSSC移植によってALSの疾患進行が加速するようなことはなく、頸髄への注射および腰髄と頸髄の両方への注射に関しても、安全性と実現可能性が示唆された。今回の解析時点で実質15例中7例が死亡していたが、このうち1例は突発性のうっ血性心不全により術後8ヵ月で死亡した。ほかの6例はALSの進行に関連した呼吸不全または呼吸合併症により術後7~30ヵ月後に死亡した。全死亡例で剖検の結果、HSSC移植部位に出血、囊胞形成、炎症反応は認められなかった。腰髄と頸髄の両方にHSSC移植を実施したE群の2例では、ALS機能評価スケール(ALSFRS-R)の改善や努力性肺活量(FVC)の維持が認められた。機能評価の8項目[ALSFRS-R、FVC、徒手筋力検査(上肢・下肢)、握力(右・左)、電気インピーダンス筋運動記録(上肢・下肢)]のうち少なくとも5項目は、過半数の患者が術後に術前の進行度予測値よりも良好な結果を示した。ALSFRS-Rと最もよく相関していたのは握力であった。HSSCは移植後6ヵ月のうちに最大効果を発揮すると考えられ、E群ではALSFRS-Rの改善が移植に合わせて2相性に認められた。

考察

本研究はFDAに承認された臨床試験として初めて、ALS患者の頸髄にHSSCを移植する治療や、腰髄に続いて頸髄にもHSSCを移植する治療の安全性と実現可能性を示した。まだ予備的な検討結果に過ぎないが、特に腰髄と頸髄の両方をターゲットとするアプローチは、呼吸機能の温存や運動機能の改善をめざす治療としての可能性が期待される。また、ALSFRS-Rの改善が認められた症例の平均罹病期間は2年未満であったことから、HSSC移植は早期のALS患者に有用である可能性がある。ただし、各症例の疾患進行速度は多様であったことから、適応条件もさらに慎重な検討が必要である。2013年9月から本試験に続く第Ⅱ相臨床試験が始まっている。今後、投与細胞数の増量やさらに多数回の移植なども含め、これらのアプローチがALS患者の臨床的改善を持続的に達成しうるかどうかの検討が望まれる。

参考文献

1) 澤本和延:成体脳に内在する神経前駆細胞をもちいた神経再生. 臨床神経学 52: 939-941, 2012
2) 割田 仁、青木正志:筋萎縮性側索硬化症の診断と治療-ALSに対する再生医療の開発-. 脳21 15: 57-61, 2012
3) 新倉麻己子、三澤日出巳:筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因究明と治療に向けた基礎研究. 基礎老化研究 38: 19-25, 2014

SAJP.RIL.19.08.2147

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