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ALS海外文献

基礎

MicroRNA-424と206は脊髄型発症の筋萎縮性側索硬化症における有望な予後マーカー MicroRNAs-424 and 206 are potential prognostic markers in spinal onset amyotrophic lateral sclerosis.

de Andrade HM, et al.
J Neurol Sci. 2016; 368: 19-24.

抄録・解説 LTTプログラム委員 齋藤豊和先生

背景

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は確定診断可能な検査がなく、その診断は臨床的評価に依存しているのが現状である。そのため、ALSは平均して1年ほど診断が遅れているとされ、その特異的診断を容易にするとともに、疾患早期の予後予測を可能にし、さらに今後の臨床試験におけるアウトカム指標にもなるようなバイオマーカーの確立が喫緊の課題である。これまでにmicroRNA(miRNA)がその候補として検討されているが、多くは動物モデルを用いた実験である。miRNAは遺伝子の転写後発現調節に関与し、循環血中に放出後も安定している。ALS患者においてmiRNA-206やmiRNA-338-3pがALSのバイオマーカーになる可能性が指摘されているものの1, 2)、臨床的パラメータや予後との相関が明らかではない。本研究では、ALS患者の骨格筋および血漿中のmiRNA発現を調べ、それが1年後までの疾患進行と関連しているかどうかを検討した。

方法

対象は2012~2013年に当施設の神経筋疾患外来クリニックで定期的に診療していたALS患者であり、El Escorial基準でdefinite ALSまたはprobable ALSに該当した患者である。全例とも神経伝導検査/筋電図検査を実施しており、Awaji基準を満たしていた。上位運動ニューロン(UMN)障害のみの患者、下位運動ニューロン(LMN)障害のみの患者、球麻痺症状のある患者は除外した。C9orf72 遺伝子のGGGGCC反復配列伸長変異は全例とも陰性であった。ALS患者群と年齢および性別を適合させた健康者を対照群とした。
まず、ALS患者5例(平均年齢50.6±14.3歳、男性3例/女性2例)および組織学的に全く正常で、検査値異常がなく、筋肉痛を唯一の主訴とした対照群5例の筋生検組織を用いて、マイクロアレイ法によりmiRNA発現の違いを調べ、リアルタイムPCR法によりその異常発現を確認した。そのうえでALS患者群39例(平均年齢52.2±10.5歳、男性20例/女性19例)および対照群39例の血漿中における同miRNAをリアルタイムPCR法で調べ、臨床的パラメータや予後との相関を検討した。

結果

マイクロアレイ法ではALS患者5例の骨格筋において対照群と比較し、11のmiRNA発現に差が認められた(hsa-miR-424、hsa-miR-503、hsa-miR-886-3p、hsa-miR-542-5p、hsa-miR-34a、hsa-miR-886-5p、hsa-miR-146b-5p、hsa-miR-504、hsa-miR-21、hsa-miR-214、hsa-miR-183)。このうち骨格筋、シナプス、末梢神経の発達・維持・機能に関係する遺伝子発現を調節すると考えられるのが、hsa-miR-424、hsa-miR-214、hsa-miR-886-5pである。これらに過去の報告でALS患者での異常発現が示されているhsa-miR-206を加え、リアルタイムPCR法で検証したところ、骨格筋で発現の差(p<0.05)が認められたのは、hsa-miR-424、hsa-miR-214、hsa-miR-206であった。このうちALS患者群の血漿中でも有意な過剰発現が認められたのがhsa-miR-424(p<0.001)とhsa-miR-206(p=0.006)であった。
しかし、これらの血漿中濃度とベースラインの臨床パラメータとの関連を検討したところ、有意な相関が認められたのはhsa-miR-424と年齢との関係(p=0.0049)のみであった。また、hsa-miR-424も、hsa-miR-206も、6ヵ月後および12ヵ月後には全体として有意な変化はなかった。ベースラインのALS機能評価スケール(ALSFRS)スコアが24を超える軽症/早期群と、25未満の重症/後期群に分け、miRNAの経時的変化を比較しても、有意な差は認められなかった。ただし、徒手筋力検査(MMT)のMedical Research Council(MRC)スコアとの関係をみると、ベースラインのhsa-miR-424やhsa-miR-206の血漿中濃度が高いほど、MRCスコアの低下が小さいことがわかった(それぞれp=0.004、p=0.042)。

考察

hsa-miR-206は骨格筋特異的なmiRNAであり、神経損傷後の新たな神経筋接合部の形成に関与する。ALS患者ではその血漿中濃度が高いほど12ヵ月後の臨床的悪化が減速されることが示唆されたが、同濃度自体に経時的変化は認められなかった。これはhsa-miR-206の発現が骨格筋の減少と並行して疾患早期に増加し、一定のレベルを維持した後、低下するためではないかと考えられる。今回の検討は症例数が少なく、ALS患者群には診断後早期例や長期罹患例が雑多に含まれたことが結果に影響した可能性がある。一方、hsa-miR-424はこれまでALSとの関連を示す研究はなかったが、その標的遺伝子の候補としてVAPB が想定される。VAPB 遺伝子はその変異が家族性ALS8型の原因として同定されており、hsa-miR-424の過剰発現との関連が注目される。
MRCスコアは筋力の直接的な指標であり、特にLMNの統合性と関連し、骨格筋に発現するmiRNAと相関するのはもっともである。すなわち、hsa-miR-206やhsa-miR-424はALS患者におけるLMN障害や骨格筋損傷のマーカーとして信頼でき、今後、ALSの非典型例やUMN徴候のみの症例での評価も興味深い。今回の検討でALS患者の予後予測にmiRNAが有望であることが示唆されたが、今後、さらに大規模なコホートをより長期に追跡して、筋肉量を補正したデータの検証をしていくことが望まれる。

SAJP.RIL.19.08.2147