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ALS海外文献

基礎

AAV9-ADAR2の静脈内投与による運動ニューロンへの送達により筋萎縮性側索硬化症モデルマウスの症状および病態発現を回避 Rescue of amyotrophic lateral sclerosis phenotype in a mouse model by intravenous AAV9-ADAR2 delivery to motor neurons.

Yamashita T, Chai HL, Teramoto S, Tsuji S, Shimazaki K, Muramatsu S, Kwak S.
EMBO Mol Med. 2013;5:1710-1719.

抄録・解説 LTTプログラム委員 郭 伸先生

背景

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の90%以上は遺伝性のない孤発性ALS(SALS)であり、その多くでは家族性ALS(FALS)の原因として知られている遺伝子変異は見つかっていない。しかし、SALSの多くに共通する病理学的特徴として、運動ニューロンにおけるTDP-43タンパク質の核内喪失と細胞質内異常蓄積が知られている。さらに、SALS患者の多くは脊髄運動ニューロンにグルタミン酸受容体の一種であるAMPA受容体の異常を有し、それが運動ニューロン死の原因となっていることが明らかになっている。RNA編集酵素であるADAR2の発現低下により、AMPA受容体のサブユニットであるGluA2に本来生ずべきRNA編集が起こらず、未編集型GluA2が発現する結果、AMPA受容体のカルシウム透過性が異常に亢進する。これが運動ニューロン死の原因となっており、その過程でTDP-43タンパク質の異常局在が生じることも確認された。従来、ALSの発症機序に基づいた根本的な治療法はなかったが、運動ニューロンにおいてADAR2の発現を増加させることが新たな治療法として期待される。

方法

ADAR2遺伝子の発現を運動ニューロン特異的に欠失させたSALSモデルマウス(AR2マウス)に対し、脊髄や脳の運動ニューロンにADAR2遺伝子を導入することによりADAR2の活性を正常化することを試みた。脳幹や脊髄の運動ニューロン全体に治療遺伝子を行き渡らせるためには、静脈注射や髄腔内投与による遺伝子送達が望ましい。しかし、全身的投与は血液脳関門(BBB)の問題があるほか、目的とする脳幹や脊髄以外でも遺伝子発現を起こしてしまう可能性がある。そこで、動物実験では静脈注射でも脊髄運動ニューロンへの遺伝子導入に成功しているアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)ベクターを利用し、さらにニューロン特異的な転写を誘導するシナプシン1(SYN1)プロモーターと結合させてADAR2遺伝子を導入した。

結果

マウスモデルでは上記のAAV9ベクターを利用した静脈内投与により、約20%の確率で脊髄運動ニューロンにADAR2遺伝子を到達させることが可能であった。ADAR2遺伝子はニューロンでのみ発現し、他の組織や周囲のグリア細胞にさえ発現せず、ニューロンを標的として安全に投与できることが示唆された。AR2マウスではALSに特有の運動機能障害、選択的な運動ニューロン死、TDP-43病理が観察される。しかし、AAV9-ADAR2の静脈内投与により運動ニューロンにADAR2遺伝子を発現させた結果、明らかな副作用を生じることなく運動機能の低下が抑制され、その効果は発症後にAAV9-ADAR2を投与した場合にも認められた。脊髄のADAR2発現は1.5倍に増加し、脊髄前根の軸索数や運動ニューロン数の減少で示される運動ニューロンの変性や脱落が抑制された。さらに、TDP-43の異常な局在変化も軽減され、核がTDP-43陽性の正常な運動ニューロン数が増加した。

考察

SALS患者の多くはニューロンにおけるADAR2タンパク質の欠乏が原因と考えられ、これを補充するのは論理的な治療介入として有望なアプローチである。今回の動物実験の結果から、AAV9ベクターを利用してニューロン特異的にADAR2遺伝子を発現させる遺伝子治療は有効かつ安全であることが示唆された。また今後、ヒトにおいても適切な投与ルートや用量などの問題を解決することにより、これまで困難であった根本的なALS治療に初めて道が開けるものと期待される。

SAJP.RIL.19.08.2147

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