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ALS海外文献

基礎

ALS/FTDのC9ORF72遺伝子伸長によるRNA毒性はアンチセンス法による介入で軽減 RNA toxicity from the ALS/FTD C9ORF72 expansion is mitigated by antisense intervention.

Donnelly CJ, Zhang PW, Pham JT, Haeusler AR, Mistry NA, Vidensky S, Daley EL, Poth EM, Hoover B, Fines DM, Maragakis N, Tienari PJ, Petrucelli L, Traynor BJ, Wang J, Rigo F, Bennett CF, Blackshaw S, Sattler R, Rothstein JD.
Neuron. 2013;80:415-428.

抄録・解説 LTTプログラム委員 郭 伸先生

背景と方法

C9ORF72遺伝子は前頭側頭型認知症(FTD)を合併する筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子として同定され、非翻訳領域におけるGGGGCC反復配列の異常伸長が孤発性ALS/FTD患者の8%以上、家族性ALS/FTD患者の40%以上に認められると報告されている。C9ORF72タンパク質の機能は不明であるが、反復配列の異常伸長が疾患に関与していると考えられ、この変異を有するALS/FTD患者の大脳皮質運動野や脊髄のニューロンの核内には、反復配列を含むRNAの異常な凝集体(RNA foci)が発見されている。
そこで本研究では、C9ORF72遺伝子の異常伸長変異を有するALS(C9ORF7-ALS)患者から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作製のうえニューロン(iPSN)に分化誘導し、これをモデルとしてC9ORF72遺伝子の異常伸長が有する病原性やそれに対する治療の可能性について検討した。

結果と考察

C9ORF72-ALS患者由来のiPSNでは、全例で核内にC9ORF72遺伝子の反復配列を含むRNA fociが認められた。さらに、このGGGGCC伸長RNAと結合する複数のタンパク質が同定され、その1つがRNA結合タンパク質のADARB2(ADAR3)であることがわかった。細胞質では、GGGGCC伸長RNAの開始コドンを介さないリピート関連翻訳(RAN翻訳)によると考えられる異常ポリペプチドの産生が認められた。
ADARはRNA編集に関与するタンパク質であり、運動ニューロンにおけるADAR2の発現を欠失させたマウスモデルでは、グルタミン酸受容体であるAMPA受容体を構成するGluR2(GluA2)が未編集型となり、その結果、カルシウム透過性が亢進して興奮毒性による運動ニューロン死が起こることが報告されている。実際、本研究のC9ORF72-ALS患者由来のiPSNもグルタミン酸による興奮毒性に脆弱であることがわかった。ADARB2自体のRNA編集機能はまだ解明されていないが、C9ORF72-ALSではGGGGCC伸長RNA との結合によりADARB2の機能が損なわれることが病因として重要であることが示唆された。
また、この結果を踏まえて、GGGGCC伸長RNAの反復配列を標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を作製し、C9ORF72-ALS患者由来のiPSNにおける効果を検討したところ、グルタミン酸興奮毒性に対する脆弱性は改善された。ただし、エクソンを標的としたASOによりC9ORF72 mRNAそのものを抑制しても、これほどの改善は得られなかった。さらに、RAN翻訳産物は依然として発現していた。したがって、C9ORF72-ALS患者由来のiPSNにおけるグルタミン酸興奮毒性の脆弱性には、C9ORF72 mRNAやC9ORF72タンパク質の機能獲得や機能喪失、あるいはRAN産物が主要な役割を果たしているわけではなく、GGGGCC伸長RNAの機能獲得による毒性(RNA毒性)こそが重要であると示唆された。

結論

以上の結果から、「C9ORF72-ALSでは有害な毒性RNAの産生が病因として主要な役割を果たす」とするRNA毒性仮説が支持され、毒性RNAを特異的に標的とするASOによって神経毒性の予防が可能であることが示唆された。C9ORF72遺伝子反復配列の異常伸長による神経変性を治療する新たなASO療法の開発が期待される。

SAJP.RIL.19.08.2147