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ALS海外文献

基礎

ALS脊髄運動ニューロンにおけるRNA編集酵素ADAR2の顕著なダウンレギュレーション Profound downregulation of the RNA editing enzyme ADAR2 in ALS spinal motor neurons.

Hideyama T, Yamashita T, Aizawa H, Tsuji S, Kakita A, Takahashi H, Kwak S.
Neurobiol Dis. 2012;45:1121-1128.

抄録・解説 LTTプログラム委員 郭 伸先生

背景

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、成人発症性の運動ニューロン疾患の中で最も発症頻度が高く、致死的な疾患である。孤発性ALS(SALS)患者の脊髄運動ニューロンでは、L-α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid(AMPA)受容体のサブユニットであるGluA2の正常なRNA編集が低下している。GluA2のグルタミン/アルギニン(Q/R)部位でのRNA編集はadenosine deaminase acting on RNA2(ADAR2)とよばれる酵素によって選択的に触媒されるが、ADAR2によるGluA2のRNA編集が行われないと運動ニューロンが緩徐な死(slow death)を起こすことがADAR2コンディショナルノックアウトマウスの解析から明らかになっている。よって、ALS患者の運動ニューロンにおいてADAR2で触媒されるGluA2 Q/R部位でのRNA編集が普遍的に低下しているのかどうか、ADAR2活性がどのようなメカニズムで進行性に低下するのかを検討することは、ALSの発症機序を知る手掛かりになると考えられた。

目的

SALS患者の運動ニューロンにおけるGluA2 Q/R部位での未編集型GluA2の発現ならびにADAR2活性低下の有無を検討する。

方法

病型のさまざまなSALS患者29例(23~87歳、四肢発症の古典的ALS 18例、進行性球麻痺型8例、認知症を伴うALS 2例、好塩基性封入体を伴うALS 1例)、正常対照12例、疾患対照5例(多系統萎縮症)の凍結脊髄検体から前角、後角、白質検体を取得、さらにレーザー光ミクロディセクターにより単一運動ニューロン組織を切り出した。RT-PCR産物を制限酵素であるBbv1 で処理して得た消化断片を定量解析することにより、GluA2 Q/R部位でのRNA編集率を算出し比較した。さらに、未編集型GluA2 mRNAを発現するALS運動ニューロンと、編集型GluA2 mRNAのみを発現しているALS運動ニューロンにおいて、3種類のADARファミリー(ADAR1、ADAR2、ADAR3)の発現量および酵素活性を解析した。

結果

ALS患者では検討した全例でQ/R部位未編集型のGluA2 mRNAを発現する運動ニューロンが存在していたが、正常および疾患対照ではすべての運動ニューロンが編集型GluA2 mRNAのみを発現した。ADAR2 mRNAの発現レベルは、脊髄前角ではALS患者において対照例の3分の1以下に低下していたが、後角や白質ではALS患者と対照例との間で差は認められなかった。ALS患者では、編集型GluA2しか発現していない正常運動ニューロンを含めて、すべての運動ニューロンでADAR2の有意なダウンレギュレーションが認められた(他のADARファミリーメンバーであるADAR1やADAR3では認められなかった)。さらにQ/R部位未編集型GluA2 mRNAを発現している運動ニューロンでは、編集型GluA2 mRNAのみを発現している運動ニューロンに比べてもADAR2のダウンレギュレーションがより顕著であった。

結論

未編集型GluA2 の発現は孤発性ALS運動ニューロンに普遍的に生じている細胞死に関わる分子異常であり、ADAR2の進行性の発現低下により引き起こされることが明らかになり、ADAR2のダウンレギュレーションは、孤発性ALS患者の運動ニューロン死に関連する重大な病理学的変化であることが示唆された。細胞死に関与する疾患特異的分子異常の証明は新規治療法開発の手掛かりを提供するものであり、運動ニューロンのGluA2 Q/R部位の編集正常化はSALS患者の治療法の1つになりうると考えられる。

SAJP.RIL.19.08.2147

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