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ALS海外文献

基礎

孤発性ALSにおけるTDP-43の病理は、RNA編集酵素ADAR2欠損運動ニューロンで発現する TDP-43 pathology in sporadic ALS occurs in motor neurons lacking the RNA editing enzyme ADAR2.

Aizawa H, Sawada J, Hideyama T, Yamashita T, Katayama T, Hasebe N, Kimura T, Yahara O, Kwak S.
Acta Neuropathol. 2010;120:75-84.

抄録・解説 LTTプログラム委員 郭 伸先生

要旨

リン酸化TAR DNA-binding protein of 43 kDa(TDP-43)を含有する細胞質封入体の出現並びにAMPA受容体サブユニットであるGluR2の Q/R部位におけるRNA編集低下は、ともに孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の運動ニューロンに特異的に認められる分子異常である。本研究の目的は、これら2種類のALS脊髄運動ニューロンの特異的分子変化の間に関連性があるかどうかを明らかにすることである。孤発性ALS患者の脊髄運動ニューロンにおいて、GluR2 Q/R部位のRNA編集を特異的に触媒する酵素adenosine deaminase acting on RNA 2(ADAR2)の発現、並びにリン酸化および非リン酸化TDP-43を含有する封入体の発現を免疫組織化学的に検討した。対照群ではすべての運動ニューロンが核の非リン酸化TDP-43(piTDP-43)およびADAR2免疫反応性が陽性であったのに対し、ALS症例では半数以上がADAR2陰性で、しかも核のpiTDP-43免疫反応性も陰性であった。ADAR2 陽性ニューロンは対照群同様に核がpiTDP-43陽性であったが、ADAR2陰性ニューロンはすべて、リン酸化TDP-43(pTDP-43)免疫反応性を示す細胞質封入体を有していた。今回の結果は、ADAR2活性の低下とTDP-43の病理との間に分子的関連性があることを示唆するものであった。

はじめに

最近認められた、AMPA受容体のサブユニットであるGluR2 Q/R部位のRNA編集の低下は、孤発性ALSの運動ニューロン死の有望な発症機序である。GluR2 Q/R部位のRNA編集は酵素ADAR2によって特異的に触媒されるが、孤発性ALS運動ニューロンではADAR2 の発現レベルおよびRNA編集活性が疾患特異的に低下している。
TDP-43は前頭側頭葉変性症患者の皮質ニューロンおよび孤発性ALS患者の脊髄運動ニューロンにおいてユビキチン陽性タウ陽性細胞質封入体の一成分として同定された。これら封入体中のTDP-43は異常なリン酸化を受けている。
このように、GluR2 Q/R部位のRNA編集低下およびTDP-43含有封入体の形成はともに孤発性ALSの運動ニューロンに特異的であることから、ALS運動ニューロンにおけるリン酸化、非リン酸化TDP-43、およびADAR2の発現を免疫組織学的に検討し、これらの分子間の関連性を検討する。

材料および方法

孤発性ALS患者7例および疾患を有しない対照群6例のホルマリン固定剖検腰髄を用いて免疫組織化学的検討を行った。

結果

正常対照群ではすべての運動ニューロンがADAR2陽性で、核はpiTDP-43陽性であり、pTDP-43は核にも細胞質にも認められなかった。一方、ALS患者から得た脊髄運動ニューロンでは、7症例全例において半数以上(総計170運動ニューロン中98ニューロン;58%)がADAR2陰性であった。このADAR2陰性運動ニューロンはすべて、細胞質にpTDP-43陽性封入体を有していたのに対し、ADAR2陽性運動ニューロンは、pTDP-43陽性細胞質封入体を有せず、核はpiTDP-43陽性であった。

考察

孤発性ALS患者では、正常対照例にはないADAR2 陰性運動ニューロンが認められ、それらすべてがpTDP-43陽性細胞質封入体を有していたこと、正常対照例運動ニューロンにはpTDP-43陽性封入体を認めないことから、ALS運動ニューロンにおけるADAR2活性の低下とpTDP-43陽性封入体形成との間に分子的関連性があることが示唆される。ADAR2 とTDP-43とはともに核タンパクで、RNA制御に関わるが、これら2つの分子間の機能的関連性についての報告はない。今回の、pTDP-43陽性封入体にはADAR2免疫反応性がないことを示す結果は、ADAR2 活性の低下が蛋白間直接相互作用による封入体へのADAR2蛋白捕捉による可能性が低いことを示唆する。ADAR2発現の低下が、TDP43病理の原因であるのか、あるいは結果であるのかについては今回の検討からは明らかでない。
ADAR2活性低下およびTDP-43異常病理が同一運動ニューロンに生じる分子機序を解明することは、孤発性ALSの神経変性過程の手掛かりになるものと思われる。

SAJP.RIL.19.08.2147