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急性の神経筋疾患における呼吸不全:北アイルランドの地域住民を対象とした病因および転帰の研究 Acute neuromuscular respiratory failure: a population-based study of aetiology and outcome in Northern Ireland.

Carr AS, Hoeritzauer AI, Kee R, Kinney M, Campbell J, Hutchinson A, McDonnell GV.
Postgrad Med J. 2014;90:201-204.

抄録・解説 LTTプログラム委員 尾野精一先生

背景

急性の神経筋疾患における呼吸不全(neuromuscular respiratory failure:NMRF)は、さまざまな神経筋疾患で発現しうる重篤な症状であり、集中治療管理による呼吸補助を必要とすることが多い。原因疾患の幅は広く、それによって予後も変わる。ギラン・バレー症候群(GBS)や重症筋無力症(MG)などによるものであれば、一般的な症状からも鑑別可能である。しかし、急性NMRF患者の55%は集中治療室(ICU)に初めて搬送された時点で診断が未確立であったとの報告があり、このような患者では、即座に個別の予後を見据えた臨床的決断をするのは困難である。これまでにも急性NMRF患者の原因疾患と転帰について調査した報告が1件あるが、追跡期間が短いほか、高度専門施設の報告であるため紹介バイアスなどの難点があった。一般の神経内科診療にも有用な知見を得るためには、地域住民全体を対象とした疫学調査により、急性NMRFの頻度、原因疾患の種類、転帰などを明らかにする必要がある。

方法

英国の集中治療管理に関する情報を収集するIntensive Care National Audit and Research Centre(ICNARC)のデータベースを利用して、北アイルランドにおける2000年1月1日から2010年12月31日までのICU入院患者のうち急性NMRF患者を検索し、記録データを解析した。北アイルランドは人口170万人を擁し、4つの地域総合病院に神経内科があるほか、入院治療に特化した基幹病院が中央に整った地域である。英国本土とは海で隔てられ、国境を接するアイルランド共和国とは医療制度が異なるため、医療サービスは域内で完結する蓋然性が高く、質の高い疫学研究が可能である。急性NMRF患者の検索は、NMRF、GBS、MG、神経障害、筋障害、横紋筋融解症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)をキーワードとして行い、人工呼吸管理の必要性、呼吸不全の原因と考えられる末梢神経系の障害を確認した。また、比較対照としてNMRFのない神経学的疾患(non-NMRF)患者についても記録データを解析した。

結果

本調査期間中に急性NMRF患者は55例が同定され、罹患率は人口100万人あたり年間2.81(95%信頼区間:2.12~3.66)人と算出された。年齢は17~88歳(中央値66歳)、男女比は1:1.5、確定診断は急性炎症性脱髄性神経炎が最も多く(62%)、次いでMG(18%)、ALS(9%)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(4%)、横紋筋融解症(2%)であった。55例中3例(5%)は診断未確立であった。院内死亡が5例(9%)あり、そのうち2例がGBS、2例がALS、1例がMGで、死亡率は人口100万人あたり年間0.26(95%信頼区間:0.08~0.60)人であった。追跡期間は0~7年(中央値500.5日)であり、最終追跡時の長期転帰としては日常生活の障害指標であるmodified Rankin Scale(mRS)の中央値が1(症候はあっても明らかな障害はない)であった。ただし、4例(7%)は介助を必要とする状態であり、11例(20%)はNMRF以外の理由により死亡していた。年齢、性別、ICU入院前の有症期間、ICU入院期間、侵襲的人工呼吸の必要性は、いずれも長期転帰に有意な影響を示さなかった。なお、ALSの5例中4例はICU入院時に未診断であり、ALSの診断確立後、患者・家族との話し合いにより侵襲的人工呼吸は中止された。院内死亡した2例以外の3例は非侵襲的人工呼吸器を装着して退院後202~404日で死亡した。急性NMRF患者55例とnon-NMRF患者93例を比較した結果、前者のほうが高齢(p<0.0001)でICU入院期間が長かったが(p<0.0001)、長期転帰はむしろ良好(p<0.0001)であった。

考察

急性NMRF患者のICU入院前における有症期間の中央値は13日であった。これは即座に確定診断のできない症例が一定の割合で存在することを示唆しており、今回の解析結果は、そうした症例において臨床的意思決定を行ううえで有用な参考情報となる。ALS患者は5例中3例が急性NMRFによるICU退院後も非侵襲的人工呼吸下で202~404日間の生存を続けた。このことから、慢性的神経痛疾患における呼吸困難によって症状が悪化している際には、ICUで短期的に強力な呼吸補助を行うことが、主に院外で行われる非侵襲的人工呼吸だけでは及ばない役割を果たすと示唆される。

参考文献

1) 岡本賢太郎、藤谷茂樹:急性呼吸不全の疫学-ICUで遭遇しやすい原因疾患に焦点をあてて-. Intensivist 5: 705-717, 2013
2) 蘇原慧伶、皿谷 健:神経筋疾患-急性呼吸不全と神経筋疾患-. Intensivist 5: 831-842, 2013

SAJP.RIL.19.08.2147

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