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ALS海外文献

ケア

筋萎縮性側索硬化症と呼吸補助:患者はどのように決めるのか? Amyotrophic lateral sclerosis and assisted ventilation: How patients decide.

Lemoignan J, Ells C.
Palliat Support Care. 2010;8:207-213.

抄録・解説 LTTプログラム委員 齋藤豊和先生

背景

筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者にとって、非侵襲的呼吸補助(NIV)は呼吸不全の症状を緩和し、生活の質(QOL)を改善し、生存期間をいくらか延長させる。しかしALS患者の生存期間を長期に延長させる唯一の方法は、気管切開による長期人工呼吸管理(LTMV)である。ただし、NIVの使用に耐えられなかったり、あるいは呼吸困難症状を緩和させるいかなる手段もただ拒絶するのみというALS患者も多い。ALS患者は、病気の全期間を通して治療法に関して多くの決定を下さなければならないが、呼吸補助の決定ほどQOLおよび生存期間に大きな影響を与えるものはない。

目的

ALS患者の呼吸補助に関する意思決定の経験をよりよく理解することである。

方法

200例近くのALS患者のケアを行っているカナダALSクリニックのALS患者(約3%がLTMV、14.5%がNIVを使用)のうち、呼吸不全に対する治療選択についての話し合いが記録され、努力性肺活量(FVC)が当該患者の予測値の60%未満であった患者を本試験の対象として選択した。患者9例の背景として、男性6例(年齢は32~72歳)、女性3例(43~66歳)、既婚者5例、離婚者3例、1例が寡婦であり、教育歴は総合大学卒5例、単科大学卒2例、1例は高校卒であった。ALSの病型は球型3例(2例男性)、その他は脊髄型で、確定診断までの期間は19ヵ月以内4例、30ヵ月1例、60~66ヵ月が3例、1例は132ヵ月であった。患者のFVCが60%未満での月数は2ヵ月(2例)から52ヵ月以内であった。呼吸補助としてNIVのみ4例 (1例は後に中止)、LTMVは1例、他の1例はNIVからLTMVへ移行し、残りの2例 は非使用であった。NIV6例のうち数例が夜間のみ装着、他の数例は昼夜、間歇的に使用。1例は食事時のみ外す以外は連続使用であった。改訂ALS機能評価スケール(ALSFRS-R)は8から最大27であった。これらの背景を有する9例およびその介護者に対し、質的現象学的方法(qualitative phenomenology methodology)を用いて計10項目の半構造化面接(semi-structured interview;個人に対する評価・診断を目的とする面接法の1つで、質問項目はある程度決められているが、質問する順序等はその場に応じて変えることができる)を行い、呼吸補助の意思決定プロセスに関連する要因を探索した。

結果

面接から以下の主要なテーマが浮かびあがり、それぞれの内容を以下にまとめた。
1)介入の意味:参加者は、非侵襲的呼吸補助(呼吸不全の症状を緩和させる手段と考える)と侵襲的呼吸補助(呼吸機能を代行することで、そうしなければ死に至るであろう患者の命を救う手段と考える)を明確に区別していた。
2)景要因の重要性:四肢筋等の機能状態、利用可能な支援(補助金付き補装具、住居、家族・コミュニティーの支援など)と経済状況を含んでいた。
3) 価値観の重要性:最も重要な因子として全例がコミュニケーション能力を挙げ、そのほか人との関わり、意思決定の自律性、生きること(Life)、QOLに関してであった。
4)不安の影響:特に呼吸困難、呼吸不全、窒息、疾患の進行、死への過程(いつ死ぬのか、どのように死ぬのか)。
5)情報の必要性:呼吸補助の使用が日常生活にどのように影響するか、呼吸不全による死はどのように起こるのか、介護者およびALS患者は必要な情報とよく起こる誤解をどのように区別するか、等。
6)呼吸補助介入への適応や受け入れ:呼吸補助装置に徐々に慣れていく長期にわたる過程とそれによる恩恵。NIV導入の決定にはその間に起こる何らかの呼吸危機(夜間のトラブルにより頻回な覚醒、急激な呼吸の悪化による病院搬送、等)がある。

本研究の意義

ALS患者とその介護者は、呼吸補助に関する意思決定に自律性を重視する。意思決定への過程は、理性的でも利己的でもなく、医療従事者が予測することや、検討すべき要因を含んでいる。呼吸補助およびその実施時期に関する話し合いは、各個人に合わせて行うべきである。また変化する必要な情報を得るために、この疾患の全期間を通して定期的に検討すべきである。ALS患者への呼吸補助に対する意思決定に影響を及ぼす多くの要因については今後さらに検討が必要である。

SAJP.RIL.19.08.2147