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ALS海外文献

ケア

運動ニューロン疾患/筋萎縮性側索硬化症の終末期の薬物療法 Medication in the last days of life for motor neuron disease/ amyotrophic lateral sclerosis.

Oliver DJ, Campbell C, O'brien T, Sloan R, Sykes N, Tallon C, Taylor-Horan J, Udoma M.
Amyotroph Lateral Scler. 2010;11:562-564.

抄録・解説 LTTプログラム委員 齋藤豊和先生

はじめに

過去30年にわたり運動ニューロン病(MND)/筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の終末期ケアについては幅広い経験が集積されてきたが、終末期の薬物療法については依然として多くの問題が残されている。ホスピスにおいて薬物療法は終末期の症状を管理するうえで有効であることが示されてきたが、薬物療法、特にオピオイドやベンゾジアゼピンの使用に関しては自殺幇助、安楽死などにつながるおそれがあり、しばしば患者、家族などの抵抗にあう。

目的

 ホスピスチームのケア管理のもとで死亡した患者の記録を後向きに調査することにより、終末期(死亡数日間)の薬物療法、特にオピオイド、ベンゾジアゼピン、および抗コリン薬の使用を確立することを目的にした。

方法

英国およびアイルランドの6つのホスピスに対し、2007~2009年の間でケアのサービスを受け、自宅またはホスピスで死亡した直近(3日から死亡当日)のMND/ALS患者10~12例について使用された薬物の詳細について提供するよう求めた。年齢、性別、MND/ALSの病状、胃瘻造設(通常は経皮内視鏡的胃瘻造設術:PEG)の有無、呼吸補助(非侵襲的呼吸補助または気管切開による侵襲的呼吸補助)の有無、死亡場所、死亡72~48時間、48~24時間、24時間未満の3つの時期に使用した薬物に関する情報を収集し、これらを1センターにて解析した。

結果

62症例(5施設から各10症例、1ホスピスから12症例)が集まり、その記録を検討した。38例(61%)が男性、20例(32%)が女性で、4例は未記入であった。平均年齢は67歳(範囲38~83歳)、患者の大多数(68%)は上下肢の筋力低下、32%で球症状が認められた。初発症状から死亡までの期間は平均32ヵ月(範囲7~132ヵ月)であったが、初発症状の時期は必ずしも正確なものではなかった。62例中死亡時20例(32%)はPEGが造設され、12例(19%)に非侵襲的換気療法が施行されていた。ホスピスでの死亡が47例(76%)、自宅が9例(15%)、ナーシングホームか病院での死亡は6例(9%)であった。
モルヒネ、ミダゾラム投与は、経口/PEG、静脈内注射、持続的皮下注射の3方法のいずれかが用いられていた。患者の41例(66%)にモルヒネが投与された。大多数の患者では持続的皮下注射によるモルヒネ投与が行われるが、本症例では最後の24時間で、12例は経口/PEGからの投与を受けていた。死亡前24時間のモルヒネの平均投与量は死亡前48~24時間の量と変わらず、3mg弱(4%)経口モルヒネ当量/24時間の増量にすぎなかった。平均投与量は80 mg経口モルヒネ当量/24時間であった。ミダゾラムに関しては、48例(77%)が投与を受け、死亡前72~死亡24時間以内までの投与量は安定していた。72~48時間は19.3mg/24時間、48~24時間は21.6mg/24時間、最後の24時間では持続的皮下投与により5~80mg/24時間の投与量であった。患者の33例(53%)が抗コリン薬の投与を受け、hyoscine hydrobromideは舌下、経皮的パッチや注射にて、hyoscine butylbromideは注射から、glycopyrronium bromideは経口/PEGにて投与を受けた。死亡前72時間で投与量が増加することはなかった。Glycopyrronium bromide(患者37%)、hyoscine hydrobromide(19%)の死亡24時間以内に使用された平均投与量は1.07mg/24時間、1.39mg/24時間であり、72時間の間で投与量の増加はなかった。Glycopyrronium bromide投与量は72~48時間が1.08mg/24時間、24~48時間が1.16mg/24時間、最後の24時間内は1.07mg/24時間であった。モルヒネ、ミダゾラム、抗コリン薬いずれも24時間以内と死亡時期に近いほど経口/PEG、静脈内注射、持続的皮下注射へと投与方法が変わり、非経口的な投与経路が増加したが、最後まで経口/PEGからの投与例も少なくなかった。

考察

ホスピスにて死を迎える例が多いのに驚きがある。緩和ケアのスペシャリストのもとでならば自宅で死を迎えることも可能であるが、他の疾患とは異なる複雑な問題も存在している。終末期の死亡前72時間においてオピオイドの投与量が増えずに安定していたことは、オピオイド投与が有効であるとともに、懸念された死亡を促進するものではなかったことを証明するものであった。癌患者のケアに用いるモルヒネの量はMND/ALS患者で使用された投与量(80mg経口モルヒネ当量/24時間)よりはるかに多く、平均の投与量は166mg経口モルヒネ当量/24時間との報告がある。
本研究は、病態進行の(終末)初期の経口モルヒネ、あるいは非経口投与によるオピオイドがMND/ALSの症状の管理において安全に使用できることを示した今までの試験を追認するものである。

SAJP.RIL.19.08.2147