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ALS海外文献

ケア

筋萎縮性側索硬化症患者における生きる意味 Meaning in life in patients with amyotrophic lateral sclerosis.

Fegg MJ, Kögler M, Brandstätter M, Jox R, Anneser J, Haarmann-Doetkotte S, Wasner M, Borasio GD.
Amyotrophic Lateral Sclerosis, 2010; Early Online, p1–6.

抄録・解説 LTTプログラム委員 尾野精一先生

はじめに

病は、しばしば、著しい精神的、社会的、実存的苦痛をもたらし、精神的苦痛は、早期の死への願望に関連することも示されている。しかし、いくつかの研究では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者において、予想外に高いレベルの個人の幸福や低いうつ発現率が報告されており、これは疾患の進行に沿った個人的対処行動の結果と考えられるとしている。 最近、「生きる意味(meaning in life:MiL)」という概念が、緩和ケアで働く医師や研究者の関心を引き、重要性を増しつつある。MiLをもつことは、末期がん患者にとって、うつや絶望、早期の死への願望に対するセーフガードになると思われることから、意味に焦点を当てた精神療法的介入がいくつか開発されている。 本研究の目的は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者においてMiLを検討し、ドイツ人の一般集団の結果と比較することである。

試験方法

「生きることの意味評価票(Schedule for Meaning in Life Evaluation:SMiLE)」は、Scientific Advisory Committee of the Medical Outcomes Trustの勧告に準拠して新しく開発されたMiLの個別尺度である。回答者は、自分のMiLにとって重要と思われる領域をリストアップし、各領域の重要度および満足度の現状を評価する。各領域の重要度は5段階、満足度は7段階に評価する。各回答者の総合重要度を表す重み指数(IoW:範囲20~100)、総合満足度を表す満足指数(IoS:範囲0~100)を求め、さらに総合SMiLE指数として重要度と満足度を合わせた重み付き満足指数(IoWS:範囲0~100)を求める。また、改訂版ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)を用いて、12項目の日常生活動作についてALS患者の機能障害を評価する(範囲0~4、最大スコア48)。統計解析にはBonferroni補正によるt検定を用いた。

結果

46例のALS患者がSMiLEに回答し(回答率73.0%)、IoSは74.7±20.2、IoWは88.1±10.1、IoWSは76.3±20.5であった。年齢、性別、および結婚歴に関して調整後の一般集団(n=977)のスコアは、IoWS(83.3±14.8)がALS患者より有意に高かったが、これは、満足度(IoS、82.8±14.7)が有意に高かったためであり、重要度(IoW)に有意差は認められなかった。
ALS患者(4.3±1.4)ではリストアップしたMiL領域の数が一般集団(3.8±1.4)と比べて有意に多かった。また一般集団と比べてALS患者は、個別領域としてパートナーを挙げることが多かったが、健康を挙げることは少なかった。
ALS患者におけるMiLの満足度は、罹病期間および機能障害の程度と逆相関を示し、罹病期間が長いほど、あるいはALSFRE-R値が低いほど、SMiLE(IoS、IoWS)のスコアも低かった。

考察

一般集団と比べてALS患者では、パートナーがリストアップされることが多く、健康がリストされることは有意に少なかったが、これは、不治の病と診断された後の対処行動(coping process)における「応答変移(response shift)」によって説明しうる。応答変移は、生命を脅かすような疾患あるいは長期疾患を有する患者が自己の疾患に順応するための、内的基準、価値、または概念化の変化である。ALS患者は、主要なMiL領域に関して、関心の中心を健康状態の低下から支援関係へと転換させている。 SMiLEはALS患者の心理社会的介入に関して有用なスクリーニング手段および転帰尺度であると思われる。また、ALS患者において問題のあるMiL領域に資源を集中することにより、MiLを強化する助けとなり得ると考える。

参考文献

伊藤博明ら:在宅神経難病患者のQOL. 神経内科 65(6):542-548, 2006

SAJP.RIL.19.08.2147