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アトピー性皮膚炎の発症╱病態形成における免疫の役割

アトピー性皮膚炎の発症╱病態形成における免疫の役割
ー分子を標的とする新たな時代の治療に向けて

アトピー性皮膚炎(AD)の疾患概念が提唱されたのは1930年代と比較的新しい。現在に至るまでの研究の進展により多くの患者はコントロール可能になったが、皮膚炎の再燃を繰り返す患者も存在する。そうした中、ADの発症に関係する特異的分子を標的とする治療が、臨床導入される可能性が見えてきた。この分野のエキスパートの先生方に、これまでのAD病態論と治療の変遷、また分子を標的とする新時代のAD治療について話し合っていただいた。

  • 司会
    宮地 良樹 氏
    京都大学 名誉教授
  • コメンテーター(五十音順)
    椛島 健治 氏
    京都大学大学院 皮膚科学 教授
  • コメンテーター(五十音順)
    佐伯 秀久 氏
    日本医科大学大学院
    皮膚粘膜病態学分野 教授

アトピー性皮膚炎の病態論の変遷

宮地:
本日は、アトピー性皮膚炎(AD)の発症と病態形成における免疫の役割を中心にご討議をお願いします。初めに病態論の変遷に触れ、それに対応してどのような治療が行われてきたかについて振り返ってみたいと思います。さらに、近年の免疫学的機序に関する研究の進展により、ADにおいても今後、特定の分子をターゲットとした治療が可能になる見通しですので、分子標的薬によるADの新しい治療についてお話を伺います。

皮膚バリア、免疫・アレルギー、痒みが相互に連関

宮地:
ADの病名を付けたのは米国の皮膚科医M. Sulzbergerで、1933年のことです。atopicはギリシャ語で「奇妙な」という意味だそうですから、多様な側面を持つ複雑な皮膚炎と受け止められていたと考えられます。
 一時、atopicという言葉がIgEを産生しやすいという意味にとられたため、アレルギー一辺倒の時代がありました。その後この十数年でしょうか、アトピックドライスキンや皮膚のバリア障害が注目されるようになりました。特に、皮膚のバリア機能に欠かせない蛋白質であるフィラグリン遺伝子の変異とAD発症との関係が注目を集めました1)
 しかし、皮膚のバリア障害にも2型ヘルパー T(Th2)細胞が産生するサイトカインが影響しますから、相互作用があると考えられます。椛島先生は、AD発症機序における皮膚バリア障害、免疫・アレルギー障害、痒みの三位一体論を提唱されています。ご説明いただけますか。
椛島:
ADがTh2型優位のアレルギー疾患であることは確かで、Th1/Th2バランス説は有名です。ADの急性期にはインターロイキン(IL)-4やIL-13などを産生するTh2細胞が特に重要な役割を果たしますが、近年の研究でIL-17AやIL-22などを産生するTh17細胞の関与が明らかになりました。また、慢性期にはTh1細胞の浸潤が認められる他、慢性期におけるTh1細胞への制御性T細胞(Treg)の関与も示唆されています(図12)
 ADの発症機序は皮膚バリア機能障害、免疫・アレルギー障害、痒みの異常という大きく3つの側面から捉えることができます。従来の研究では、これら3因子は別々のものと考えられがちでした。しかし、3因子は互いに連関して悪循環を来しているため(図23)、これらを一体のものとして捉えることが重要ではないか、というのが三位一体論の背景にあります。
 Th2細胞の分化誘導には皮膚のバリア障害が関係し、フィラグリンの遺伝子変異により皮膚バリアが破壊され、蛋白抗原などに曝露されやすいことが分かってきました。しかし、皮膚のバリア破壊には痒みによる搔破も関係し、最近ではTh2細胞が産生するサイトカインであるIL-4/13が皮膚のバリア破壊に関係することが明らかになっています。
宮地:
IL-4/13がフィラグリンの発現に影響するということですか。
椛島:
そうです。IL-4/13により表皮角化細胞の分化が障害され、皮膚バリアが破壊されます。日本人のAD患者におけるフィラグリンの遺伝子変異保有率は20%程度で、大部分は痒みによる搔破で皮膚バリアが破壊されると考えられています。

〔椛島健治、他.J Environ Dermatol Cutan Allergol 2009; 3(3): 129-137〕

(Otsuka A, et al. Immunological Reviews 2017; 278: 246-262)

皮膚バリア障害に遺伝的要因と外的環境因子が関係

宮地:
皮膚バリア障害について、佐伯先生はどのようにお考えですか。
佐伯:
フィラグリンの遺伝子変異があっても全例がADを発症するわけではないので、何かプラスαの要因が関係していると思います。
宮地:
そのプラスαの要因としてIgEを産生しやすい、いわゆるアトピー素因が関係しているとお考えですか。
佐伯:
そうだろうと思います。日本人ではADの疾患感受性遺伝子として、例えばIL-4/13や、皮膚表皮から産生されるTh2ケモカイン(TARC)の受容体(CCR4)の近傍にある遺伝子など、15個くらいの候補が考えられています。
宮地:
椛島先生はどのようにお考えですか。
椛島:
遺伝的要因に加えて、エアコンの使用などによる乾燥や石鹸の多用などの外的環境因子の影響も関係していると考えています。
宮地:
外的環境因子の1つとして、 AD患者の皮膚における黄色ブドウ球菌の増殖が指摘されていますね。
椛島:
黄色ブドウ球菌とAD増悪との関係については、千葉大学の中村悠美先生の米国留学中の研究成果として、黄色ブドウ球菌が産生するデルタトキシンによる肥満細胞の活性化の関与が報告されています4)
 フィラグリンの発現低下により皮膚のpHはアルカリ性に傾きやすく、結果として黄色ブドウ球菌が増殖し、善玉菌と呼ばれる表皮ブドウ球菌が育ちにくい環境になると考えられています。
宮地:
ADの三位一体論で痒みの重要性が指摘されていますが、痒みに関して佐伯先生はどのような位置付けをされていますか。
佐伯:
ADでは黄色ブドウ球菌が増殖しやすく、結果としてTh2細胞から痒みを惹起するIL-31の産生が高まることが報告されています。ADの痒みにはIL-31の役割が極めて大きく、痒みを感じるC線維にIL-31に対する受容体があること、さらにC線維が真皮を越えて表皮まで伸長することが、痒みの原因として重要であると考えられます。
宮地:
ここまでのお話をまとめると、アトピー素因や外的環境因子による皮膚のバリア障害、Th2細胞の分化誘導による免疫・アレルギー障害と、それに付随する痒みの相互作用が、現状におけるADの病態論であると思います。

アトピー性皮膚炎の治療の変遷

宮地:
それでは次に、これまでのADの治療の変遷に話を進めていきたいと思います。

多くの患者は抗炎症外用薬でコントロール可能

宮地:
わが国でステロイド外用薬の使用が開始されたのは1953年で、ほぼ唯一のAD治療薬という時代が長く続きました。外用薬ですからスキンケアの役割も兼ねていると考えられますが、ステロイド外用薬に関してはどのような位置付けをされていますか。
佐伯:
位置付けとしては抗炎症外用薬としてとても重要ですが、抗炎症作用として特異性が低いことと、皮膚の萎縮や毛細血管拡張などの副作用のために顔や首には使いづらい面があります。
宮地:
じゅうたん爆撃ではなく、標的を定めて治療すれば効果は特異的になることは確かです。次に登場したのが、免疫抑制薬のタクロリムス軟膏です。日本で使えるようになったのは何年でしたかね。
椛島:
1999年で、世界に先駆けての導入でした。
宮地:
タクロリムスの登場で、ステロイドより治療の標的が狭まったと考えて良いですか。
佐伯:
タクロリムスは良い薬ですし、治療の標的は狭まったと思いますが、ピンポイントに抑制するわけではなく、また刺激感などで使いにくい場合があります。
宮地:
タクロリムス軟膏でatopic red faceがかなり解決しましたので、確かに良い薬だと思います。その後、2008年にシクロスポリンの内服薬が登場しました。シクロスポリンはどのような位置付けになりますか。
佐伯:
シクロスポリンは、重症難治性患者の短期的な寛解導入に使うのが原則と考えています。AD患者の80~90%は抗炎症外用薬による治療でコントロール可能です。リアクティブ療法より寛解維持を目的としたプロアクティブ療法(図35)が推奨されるようになったことから、よりコントロールしやすくなったと思います。
 したがって、シクロスポリンは残りの重症難治性患者の寛解導入に短期的に使用し、寛解後は抗炎症外用薬による治療に戻すべきです。内服薬で腎障害や高血圧などの副作用がありえますので、短期的使用にとどめるべき薬剤と考えています。

〔加藤則人. アレルギーの臨床 2014; 34(10): 21-25〕

治療においても三位一体が重要

宮地:
乾癬では既に分子標的薬である生物学的製剤が使われています。その位置付けについて、佐伯先生お願いします。
佐伯:
乾癬における生物学的製剤は重症難治性患者への使用が原則です。ただし、乾癬では関節症状もありますから、関節症状が強かったりして機能的障害が進みそうな患者には、早めに生物学的製剤を使用する場合もあります。
 ADでは痒みは必発で搔破により増悪しますが、乾癬では搔破とは関係なく皮疹が現れます。そこがADと違うところかなと思います。
椛島:
ADを早期に防ぐと喘息などが予防できるのではないかということで、現在いろいろな臨床試験が行われています。
宮地:
アトピックマーチに関しては国立成育医療研究センターのグループが、新生児期からの保湿薬使用によりADが予防できるかもしれないという論文6)を発表しています。どのような評価をされていますか。
椛島:
米国でも同じような試験が行われ、ほぼ同様の結果がでています。したがって、経皮感作のブロックがADの発症抑制につながる可能性があると考えられます。
宮地:
ADの治療としてスキンケアには保湿薬、痒みの抑制には一般的抗ヒスタミン薬、皮膚炎の制御には抗炎症外用薬が用いられています(図4)。この図にあるように、ADにはアレルギー的側面と非アレルギー的側面があり、両者はこれまで別のもののように考えて治療されていました。しかし、ADの発症と病態形成にはこれらの因子が互いに連関するわけですから、治療に関しても三位一体で考えていくことが重要ですね。

(宮地良樹氏提供)

分子標的薬による治療に向けて

宮地:
ここからは、ADの分子標的薬による治療について話を進めていきたいと思います。

病態をピンポイントに抑制

宮地:
ADに関係する分子を標的とした新薬の開発研究が進められていて、わが国で最初に臨床に導入される可能性があるのはTh2細胞が産生するIL-4を抑制する分子標的薬で、 IL-4受容体αサブユニットに対するモノクローナル抗体製剤です。
 分子標的薬に関しては乾癬で既に使用されていますので、佐伯先生からご説明いただけますか。
佐伯:
乾癬に対する分子標的薬には腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬、IL-12/23阻害薬とIL-17阻害薬があります。特に、IL-12/23阻害薬とIL-17阻害薬は病態をピンポイントに抑制することから、副作用が起こりにくいと考えられます。その意味で、Th2細胞だけを抑制するピンポイントの治療が行えれば副作用も抑えられると思います。
宮地:
Th2細胞の分化を誘導する因子として、どのようなものが考えられていますか。
椛島:
先ほど挙げた黄色ブドウ球菌など多様ですが、現在は表皮角化細胞に発現するサイトカインの中でも特にTSLP、IL-33、IL-25が重要と考えられています。搔破は、バリアの物理的破壊のみならず表皮角化細胞に作用し、TSLPやTARCの発現を上昇させTh2へのシフトを促進させます。TSLPがランゲルハンス細胞などの樹状細胞に作用すると、抗原に対するTh2型免疫応答を介してB細胞によるIgE産生が誘導されます。つまり、上流が実は表皮角化細胞にあることが分かってきました。

病態に関与する各種サイトカインとそれをターゲットとした治療薬の展望

宮地:
分子標的薬が臨床に導入されれば、AD治療は新しい局面を迎えることになると思います。AD治療における分子標的薬の登場をどのように受け止めておられますか。
佐伯:
多くの患者さんは標準治療を行うことで症状をコントロールすることが可能です。しかしながら慢性で難治性の患者さんにおいては、必ずしもそうはいかないケースがあるのが現実です。治療の選択肢が増えることは喜ばしいことです。
椛島:
IL-4/13はIgE産生や皮膚のバリア障害に関係してADの病態に本質的な役割を果たしています。また、痒みにはIL-31の関与も明らかになってきています。現在さまざまな分子標的薬の開発が進んでおり、私も期待を寄せています。
宮地:
本日はADの病態論と治療の変遷、さらに今後、臨床に導入されるであろう分子標的薬について示唆に富むご討議をいただきました。先生方、どうもありがとうございました。
  • 参考文献
  • 1) Palmer CN, et al. Nat Genet 2006; 38: 441-446.
  • 2) 椛島健治. J Environ Dermatol Cutan Allergol 2009; 3(3): 129-137.
  • 3) Otsuka A, et al. Immunological Reviews 2017; 278: 246-262.
  • 4) Nakamura Y, et al. Nature 2013; 503: 397-401.
  • 5) 加藤則人. アレルギーの臨床 2014; 34(10): 21-25.
  • 6) Horimukai K, et al. J Allergy Clin Immunol 2014; 134: 824-830. e6.

MAT-JP-2103454-1.0-04/2021

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