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疾病負荷から考えるアトピー性皮膚炎の適切な治療の重要性

疾病負荷から考えるアトピー性皮膚炎の適切な治療の重要性

アトピー性皮膚炎(AD)は、痒みや痒みによる睡眠障害といった症状から直接生じる負荷に加え、皮膚病変による見た目の問題とそれらに起因する精神状態への影響なども含めると、Disease Burden(疾病負荷)が極めて大きい。それらの負荷は、仕事や学業をはじめ、人間関係や恋愛関係など患者の生活に幅広く影響し、 QOLを著しく低下させているものの、これまで、AD患者が抱える問題は、他の皮膚疾患ほど大きく取り上げられてこなかった。
 そこで本座談会では、AD治療のエキスパート3氏をお招きし、 ADにおける疾病負荷の認知向上および治療による負荷軽減の重要性について討議していただいた。

  • 司会
    江藤 隆史 氏
    東京逓信病院
    副院長/皮膚科部長
  • コメンテーター(五十音順)
    天野 博雄 氏
    岩手医科大学医学部
    皮膚科学講座 教授
  • コメンテーター(五十音順)
    大矢 幸弘 氏
    国立成育医療研究センター
    生体防御系内科部
    アレルギー科 医長

成人期以降でもAD患者は多い

江藤:
本日は、AD治療に造詣が深い両先生とともに、AD患者のQOL向上に向けた治療の重要性について、ディスカッションしてまいります。
 まずは、データを振り返りながら、先生方の臨床におけるご経験も踏まえ、 ADの疫学を議論したいと思います。
 厚生労働省の平成26年患者調査によれば、ADの患者数は45万6,000人と推計されています。年齢別では1~4歳が5万8,000人と最も多く、10~14歳でいったん減少しますが、その後は再び増加し、40~44歳でも4万7,000人となっています1)。このように、ADは若年層だけでなく、成人期以降にも多い疾患であることが分かります。
大矢:
この調査は医療施設での定点調査です。医療機関を受診せず、このデータに含まれない患者も相当数いると考えられ、実際の患者数はもっと多いと推測できますが、10~14歳で患者数が少ない背景には、思春期の小児はあまり病院を受診したがらない傾向があるのではないかと思います。
天野:
群馬県の前橋市では開業医の先生方が中心になり、1985年に全国初、唯一の皮膚科校医制度を発足させています。以降、ADの罹患率を見ていますが、小学1年生よりも中学1年生の方がAD患児数は少ないという結果でした。つまり、成長するにつれてAD罹患率は低下しているのではないかと思います。
江藤:
病院を受診しない小児が多いことに加え、思春期はいわゆる痤瘡の時期でもあり、それまでのドライスキンが改善される子供が多いことも患者の減少に関連しているかもしれませんね。
 続いて、ADの自然経過について大矢先生からご解説いただきます。
大矢:
乳児期あるいは小児期に発症するADには、小児期で自然治癒するタイプと小児期以降も持続するタイプがあることが最近になって分かってきました。持続するタイプには、主に①軽症で持続②重症で持続③一度治癒して再発④小児期に発症して徐々に重症化する-という4つのタイプがあります。また、それに加えて成人期以降に発症するタイプもあります(図1)。ただし、乳児期に発症して重症で持続するタイプにも、早期に治療すれば軽症で維持できる患者が多く含まれているように思いますので、可能な限り治療すべきだと考えています。

(大矢幸弘氏提供)

江藤:
治療介入が自然経過にどのような影響を及ぼすかについては、明らかになっていないのですか。
大矢:
介入と非介入を比較するコホート研究の実施が困難で、また1人の患者を乳児期から成人期以降まで長期にわたりフォローアップすることも難しく、そのような検討はされていないのではないかと思います。
江藤:
日本ではADに関する疫学調査が不十分なことは否定できません。また、治療を諦めて通院しない患者など表面化していない患者もいると考えられます。しかしながらADは皮膚科における診療で最も多い皮膚疾患の1つであることも分かっています。このことからも、わが国には非常に多くのAD患者さんがおり、さらにその多くが長期間、苦しんでいることは事実だといえますね。

日常生活や精神面に及ぼす影響

江藤:
次に、AD患者が社会生活でどのような問題を抱えているのか、世代別に考えていきたいと思います。
 まず小児期ですが、患児は痒みによる睡眠障害、外遊びや水泳の制限、いら立ちなどを抱え、保護者も睡眠不足や子供の食事制限などの負担、子供の人間関係への不安などを抱えているという海外の報告があります2)。大矢先生は小児の治療がご専門ですが、この点についてどのようにお考えですか。
大矢:
小児のQOL評価では、代理で親御さんに尋ねたり、親御さんを評価対象とすることが多いです。ADの子供がいる場合、親御さんのQOLも悪化するのですが、治療によって子供の症状とQOLが改善すると親御さんのQOLも改善するというように、両者のQOLには相関が見られ、子供のAD改善が家族のQOL改善にもつながると感じています。
江藤:
小児の場合、勉学への影響も看過できません。日本国内で皮膚アレルギーを有する中学および高校受験生の子供を持つ母親を対象としたインターネット調査では、母親の31%が子供の痒みは勉学や成績に影響があると感じていました(図2)。

(室田浩之、他. 診療と新薬 2010; 47: 964-973より一部改変)

大矢:
確かに、ADによる学業への影響は大きいと思います。当院で入院治療を行い症状が改善した患児のほとんどは、学校の成績が上がったと報告してくれます。その背景には、痒みの消失に伴う睡眠の質や集中力の向上があるように感じます。
江藤:
続いて、青年期以降に話題を移したいと思います。海外のコホート研究では、湿疹を有する思春期の男女は湿疹の経験がない思春期の男女と比べて、特に男子で希死念慮が強いことや、恋愛経験がない割合が高いことが示されています(表1)。

(Halvorsen JA, et al. J Invest Dermatol 2014; 134: 1847-1854)

天野:
ADが原因で思春期に引きこもりとなり、そのまま成人を迎えた患者さんが散見されます。また、日常のささいな行動にも制限を感じている患者さんに出会います。これらは、患者さんにとって大きな問題と捉えています。
江藤:
確かに、そうした問題はありますね。成人では、衣服の選択、メイクアップやひげそりなど日常的な行動に支障を感じているとの海外の報告があります(図3)。私自身は結婚を諦めた女性患者を経験し、この病気が日常生活や精神面に与える影響の大きさを感じています。

(Anderson RT, et al. Curr Allergy Asthma Rep 2001; 1: 309-315)

(Yano C, et al. J Dermatol 2013; 40: 736-739)

労働生産性や活動性の低下がもたらす経済的損失

江藤:
近年、注目されているのが、 ADによる労働生産性の低下や活動性障害、そしてそれらが社会に与える経済的損失です。例えば、痒みを伴う皮膚疾患を有するビジネスパーソンを対象とした調査では、「症状や見た目が仕事に影響を及ぼしている」との回答が見られました3)。ADは他の皮膚疾患と比べてQOLが極めて低い疾患とされていますが4)、実際にそうした悩みを聞くことはありますか。
天野:
AD患者の中には就職自体が高いハードルで、就業できていない患者さんがいます。また、就職できても、症状がひどい場合には仕事を休まなければならない場合があります。あるいは夜勤で悪化するような患者さんには夜勤をしないよう指導することもあります。ADが就職や業務に影響している患者さんを日常臨床でしばしば経験しています。
江藤:
国内のデータでは、ADは軽症であっても全般労働生産性・全活動性に影響を与え、さらに、重症度に応じて疾病負荷が大きくなることが示されています(図4)。また2009年の報告では、わが国におけるアレルギー性皮膚疾患による全般労働障害率は39.5%で、その経済損失は1カ月当たり約4,690億円に上ると試算されています(表2)。これに対し、抗ヒスタミン薬による治療介入で経済損失の大幅な回避が可能と試算されています5)。標準治療を含めて試算すれば、より多額の損失回避が期待できるでしょう。われわれはこのような検証を重ねて、さらに社会に示していく必要があります。

(室田浩之、他. Progress in Medicine 2009; 29: 1842-1848より抜粋)

寛解状態を維持する上で重要なプロアクティブ療法

江藤:
ここからは、具体的な治療方法についてご意見を伺います。
 ADの治療では、日本皮膚科学会などの診療ガイドラインに沿った標準治療を遵守し、ステロイドやタクロリムスの外用療法で皮膚の炎症を鎮静化することが重要です。ステロイドしか選択肢がなかった時代には、顔面症状のコントロールが非常に困難でしたが、タクロリムスの登場により状況が大きく変わりました。例えば、同薬を用いて症状が改善したことにより、それまで結婚を諦めていた女性患者が次々と結婚をしました。私は新しい薬が患者の人生を変えていくさまを目の当たりにしました。
大矢:
タクロリムスは眼周囲に塗布してもステロイドのように緑内障のリスクがないので、顔面のコントロールは本当に楽になったと思います。
江藤:
その後、内服薬のシクロスポリンが重症例に投与可能になりました。
天野:
成人患者を診ることが多いので、シクロスポリン内服薬の使用頻度は高いです。投与後すぐに痒みが軽快するとの声が多いので、重症例のQOL改善に有用だと思います。
江藤:
抗ヒスタミン薬を併用されることはありますか。
大矢:
花粉症合併例では花粉飛散シーズンに皮膚炎が悪化することも多いので、その期間には併用します。
天野:
抗ヒスタミン薬の効果は個人差がありますが、痒み止め、抗炎症薬として基本的に併用しています。
江藤:
AD患者を苦しめる最大の要因は痒みです。痒みを軽減するために外用薬の補助として抗ヒスタミン薬は有用ですので、私は小児にも積極的に併用することが多いです。
 外用療法に関しては、近年、「プロアクティブ療法」が有用として推奨されています。症状が治まった後も低頻度で定期的に外用薬を塗って寛解状態を維持する療法ですが、実行されていますか。
大矢:
私はプロアクティブ療法を重視しており、小児では同療法でほぼ治癒する例もあります。子供は大人に比べると低用量のステロイドを短期間塗るだけで症状が治まりやすい一方、その状態で保湿剤のみにすると症状の再燃が懸念されます。そこで、毎日ではなく、1日置き、2日置きとステロイドを塗る間隔を空けることで、多くの場合、副作用をできるだけ抑えながら維持が可能となります。間隔をかなり空けても良好な状態を保てるようになると、そのうち親御さんが自己判断でやめてしまうことがあるものの、その後再燃しない例も少なからず経験しています。
江藤:
成人でもプロアクティブ療法は浸透しつつあります。しかし、外用療法は薬剤のべたつきや用法・用量通りに塗らなければならないことが大きな負荷となり、QOLを低下させます。したがって、塗る回数はできるだけ減らす方が良いと思いますが、ゼロにすると再燃してしまう可能性があります。そこで、症状をコントロールすればQOLが改善して日常生活における数々の支障が軽減されること、そのためには副作用が発現しにくい週1、2回程度の外用療法継続の必要性を患者に理解してもらうことは重要です。
天野:
外用療法は基本です。ただ、外用は時間も手間もかかりますので外用することに今なお苦しまれている患者さんは多いです。外用の回数や量を減らせるような新たな治療薬の登場が期待されます。
江藤:
外用療法に追加することで、継続したコントロールが可能になる薬剤の登場が待ち望まれます。先生方、本日はありがとうございました。
  • 参考文献
  • 1) 厚生労働省「平成26年患者調査」
  • 2) Chamlin SL, et al. Pediatrics 2004;114: 607-611.
  • 3) 室田浩之、他. 診療と新薬 2010; 47: 964-973.
  • 4) Zachariae R, et al. Acta Derm Venereol 2000; 80: 272-276.
  • 5) 室田浩之、他. Progress in Medicine 2009;29: 1842-1848.

MAT-JP-2103455-1.0-04/2021

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