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体内時計が刻む生体リズムと鼻の関係

体内時計が刻む生体リズムと鼻の関係

近年、いわゆる「体内時計」に注目が集まっています。

ヒトの生理活動の多くが体内時計の影響を受けているだけでなく、現代人の生活習慣の変化に伴う体内時計の変調が、
体調に悪影響を及ぼすことも知られるようになってきました。


体内時計が刻む生体リズムはさまざまな疾患の症状発現にも影響しますが、それは鼻疾患も例外ではありません。

本コラムでは、生体リズムが鼻に及ぼす影響についてご紹介していきます。

第3回 概日時計とアレルギー症状

第3回 概日時計とアレルギー症状

アレルギー性鼻炎の治療は、ご存じのように抗原除去と薬物療法が主体となります。長期寛解も期待できるアレルゲン免疫療法の導入が進んでいるものの、普及はまだまだこれからです。一方、I型アレルギー反応は概日時計(体内時計)の影響下にあることが明らかになり、新たな治療法の糸口となる可能性が示されています。そこで第3回では、新たなアプローチとして研究が進む、概日時計をターゲットとしたアレルギー治療の可能性についてご紹介したいと思います。

時計遺伝子とアレルギー症状

第2回でも触れたように、概日時計が刻むサーカディアンリズム(circadian rhythm;概日リズム)はさまざまな疾患の症状発現に影響を及ぼしています。その代表格と言えるのがいわゆる「モーニングアタック」です。この事象は古くから知られていましたが、その発生のメカニズムについてはよくわかっていませんでした。

こうしたアレルギー疾患の症状発現と概日時計の関係性については、山梨大学の中尾篤人氏らのグループが研究を行っており、近年新たな知見が得られています。例えば、同氏らが受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応の日内変動をマウスを用いて検討したところ、時計遺伝子Per2を変異させ、体内時計機能を消失したマウスでは、野生型マウスで見られるPCA反応の日内変動の消失が認められ、どの時間でも同程度のPCA反応となりました1)。さらに、マスト細胞の時計遺伝子clockを特異的に変異させ、マウス細胞の体内時計のみを消失させたマウスを作成してPCA反応を観察した結果、やはりPCA反応の日内変動が消失していました2)。これらのことから、マスト細胞の概日時計がI型アレルギーの日内変動の制御に関わっていることが示唆されました。

ヒトにおいても、スギ花粉症患者におけるスギ抗原への反応性の日内変動に時計遺伝子が関与していることが明らかにされています。スギ花粉の非飛散期にスギ花粉症患者をスギ花粉や抗IgE抗体で刺激し、朝晩(7時、19時)に末梢血を採血して好塩基球活性化試験 (Basophil Activation Test)を施行したところ、スギ花粉症患者では19時と比べて7時のほうが活性化反応が強く、日内変動が見られました。さらに、単離好塩基球の時計遺伝子Per1とPer3の発現は7時の方で高く、ヒト好塩基球でもその概日時計がスギ抗原に対する反応性の日内変動に影響を及ぼしていることが示唆されました3)

アレルギーの新たな治療の開発に向けて

このように、I型アレルギー反応はマスト細胞や好塩基球といった末梢の細胞の概日時計の影響を受けている可能性があることを踏まえ、中尾氏らはマウスのマスト細胞の概日時計を操作してI型アレルギーの発症に影響を与えることができるか検討しました4)。卵白アルブミン感作により鼻炎モデルマウスを作成し、CLOCK活性を抑制するために、カゼインキナーゼ阻害剤もしくはデキサメタゾンを用いて時計遺伝子Per2の発現レベルとそのタンパクレベルをマスト細胞内で高めたところ、鼻かき行動やくしゃみといった鼻炎症状が抑制されました(図)。本検討により、概日時計を“操作”することがアレルギー症状を抑制するための新たなアプローチとなる可能性が示されました。

【図】花粉症モデルマウスにおける鼻かき行動、くしゃみの抑制

Nakamura Y, et al. J Allergy Clin Immunol 137(4): 1226-1235, 2016


これまで見てきたように、アレルギー症状の発現には概日時計が強く影響を及ぼしており、抗原除去や抗ヒスタミン薬などによる治療に加え、今後は概日時計の視点からも治療を考えていく必要があるのではないでしょうか。アレルギー疾患の治療も、新しい時代を迎えようとしているのかもしれません。

1) Nakamura Y, et al. J Allergy Clin Immunol 127(4): 1038-1045.e1-3, 2011
2) Nakamura Y, et al. J Allergy Clin Immunol 133(2): 568-575, 2014
3) Ando N, et al. Allergy 70(3): 319-322, 2015
4) Nakamura Y, et al. J Allergy Clin Immunol 137(4): 1226-1235, 2016