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体内時計が刻む生体リズムと鼻の関係

体内時計が刻む生体リズムと鼻の関係

近年、いわゆる「体内時計」に注目が集まっています。

ヒトの生理活動の多くが体内時計の影響を受けているだけでなく、現代人の生活習慣の変化に伴う体内時計の変調が、
体調に悪影響を及ぼすことも知られるようになってきました。


体内時計が刻む生体リズムはさまざまな疾患の症状発現にも影響しますが、それは鼻疾患も例外ではありません。

本コラムでは、生体リズムが鼻に及ぼす影響についてご紹介していきます。

第2回 概日リズムとはなにか

第2回 概日リズムとはなにか

血圧やホルモン分泌などヒトの生理活動はサーカディアンリズム(circadian rhythm;概日リズム)の影響下にあります。それに加え、現代ではシフトワークや明暗環境の変化、長時間労働による生活習慣の乱れなどにより、「社会的時差ボケ」を来してメタボリックシンドロームを生じるなど、ヒトは概日リズムが狂うことでも大きな影響を受けます。そこで、第2回では概日リズム発見までの経緯を振り返るとともに、概日時計(体内時計)のメカニズムやさまざまな疾患に与える影響ついて見ていきたいと思います。

概日リズムの研究は18世紀から

ヒトの体内で概日リズムを刻むのが概日時計、いわゆる体内時計です。その研究の歴史は古く、概日リズムに関する最初の学術論文が発表されたのは1729年、オジギソウを観察したものでした。その後、1962年にヒトの概日リズムが洞窟にこもる実験で明らかにされ、1997年にはヒトにおいて時計遺伝子が発見されました1)。2017年にはHallらが「概日リズムを制御する分子メカニズムの発見」の功績でノーベル生理学・医学賞を受賞しています2)

ヒトの概日時計システムは、視床下部の視交叉上核(SCN)に存在する中枢時計とほぼすべての末梢細胞に存在する末梢時計により構成されています(図)。この概日時計の実態について、中尾らは「複数の時計遺伝子タンパク質の発現や活性が細胞内で約24時間周期性の自律的な振動体を形成することにある。特にclock、Bmal1、Period(Per)、Cryptochrome(Cry)の4種類の時計遺伝子によって形成される転写・翻訳レベルでのネガティブフィードバックループが重要である(コアループ)」と指摘しています3)
このコアループは約24時間で1周しますが、24時間より若干長いことから、次第にズレが生じます。そこで、SCNへの環境光などの光情報刺激により中枢時計が外部環境の時間に応じてリセットし、末梢細胞にホルモン分泌や神経伝達によって情報を伝え、全身の末梢時計を同調させます3)

【図】概日時計システム

Nakao A, et al. Allergy 70(5): 467-473, 2015より作図

最近、「体内時計のリセット」のために食事、特に朝食のきちんとした摂取が呼びかけられるケースが見られますが、中枢時計は食事による影響を受けません。当然、朝食の摂取により朝型に移行して早寝早起きができるようになるわけでもありません4)
中枢時計は基本的に環境光で調節されることから、網膜から視交叉上核への入力経路が障害されると狂いが生じると考えられます。1970年代以降、視覚障害者において睡眠・覚醒リズムが24時間周期から遅れる非24時間睡眠覚醒症候群が多数報告されています5)
一方、末梢時計は食事や運動、ストレス等の影響を受けています。ラットを用いた検討によると、朝食を抜いた群では朝食を抜かなかった群と比べて肝臓の体内時計が2~4時間程度遅れ、体重が増加していました6)。このことから、中枢時計の是正には朝の太陽光を浴びることが重要であり、末梢時計の是正には中枢時計からのコントロールと食事や運動、ストレスなどを考慮する必要があると言えます。


モーニングアタックの要因としての概日リズム

ここまで概日時計の仕組みについて見てきましたが、概日時計が刻む概日リズムはさまざまな疾患の症状発現にも影響を及ぼします。例えば、虚血性心疾患は早朝から午前中に、気管支喘息の発作は明け方に発症することが知られています7)。I型アレルギー反応も概日時計によって制御され、IgE刺激に対するマスト細胞の応答(脱顆粒)は、日中より夜間に強くなっており、アレルギー性鼻炎症状が早朝に増悪するモーニングアタックが生じる要因の1つではないかと考えられています3)

冒頭でも触れたように、現代社会では概日時計が乱れやすい状況が生じています。概日時計の異常は、高血圧や肥満、メタボリックシンドロームの発症に関与することが知られています。実際、人工的に時計遺伝子を変異もしくは欠損させたマウスを用いた検討において、メタボリックシンドロームを呈したり8)、膵臓における概日時計の破綻がインスリン分泌の低下を引き起こしたりしていることが報告されています9)

このように、概日リズム、概日時計は鼻症状を始め、さまざまな疾患の症状発現に関連していることがわかります。第3回では現在研究が進む体内時計をターゲットとしたアレルギー性鼻炎治療についてご紹介します。

1)生物時計研究の歴史 - 花井@産総研(2019年2月20日アクセスhttps://staff.aist.go.jp/s-hanai/history.html
2) THE NOBEL PRIZE(2019年2月20日アクセス https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/
3) Nakao A, et al. Allergy 70(5): 467-473, 2015
4) Webナショジオ 【連載】睡眠の都市伝説を斬る(2019年3月27日アクセス https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/403964/062100068/
5) 三島由美子, 他. 生理心理学と精神生理学 18(1): 17-25, 2000
6) Shimizu H, et al. PLoS One 13(10): e0206669, 2018
7) Paganelli R, et al. Clin Mol Allergy 16:1, 2018
8) Turek FW, et al. Science 308(5724): 1043-1045, 2005
9) Marcheva B, et al. Nature 466(7306): 627-631, 2010