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Vol.5 鼻のせい?睡眠負債と脳疲労

最近話題になっている睡眠負債。睡眠不足が蓄積し、活動性の低下や認知症・糖尿病などの重大疾患につながるといわれています。また、2017年のノーベル生理学・医学賞は、サーカディアンリズム(概日リズム)を制御する分子メカニズムを発見したHallらが受賞しましたが、睡眠はこの概日リズムとも密接にかかわっています。

このように、睡眠の重要性はいうまでもありませんが、睡眠障害は鼻呼吸障害が原因となって起こることがあります。アレルギー性鼻炎患者によく見られる日中の眠気、注意力の欠如、意欲低下、さらに小児期の学習・記憶効率の低下などは、睡眠障害患者と共通するものです1)。わが国においてアレルギー性鼻炎の罹患率は40%にも上り、10~40歳代の患者が多く2)、社会的影響は大きいだけに、適切な治療が欠かせません。今回は、鼻閉による睡眠障害が脳に及ぼす悪影響についてご紹介したいと思います。

鼻炎患者の睡眠障害改善には鼻閉治療が重要

インターネット調査によると、アレルギー性鼻炎患者の82.8%は十分な睡眠がとれていない、70.6%は寝つきが悪い、70.5%は日中眠いと回答しています(図)。日中に働く労働者を対象とした検討では、鼻閉の程度が強いほど、日中の眠気が強く、QOLが低下していることも示されました3)。スギ花粉症が疑われる初診患者の73.2%は花粉飛散時期に睡眠障害を自覚しており、「くしゃみ、鼻漏、鼻閉」の3大症状が「自覚的睡眠の質、睡眠困難、日中の眠気」に影響し、中でも「鼻閉」が「睡眠の質」や「日中の眠気」に強く関連することも報告されています2)

古くから夜間・早朝におけるアレルギー症状の増悪はよく知られていますが、その背景として、Smolenskyらは睡眠中に鼻腔抵抗の増加やコルチゾールレベルの低下などヒトが本来持つ概日リズムが影響を及ぼしていると指摘しています4)。鼻粘膜における時計遺伝子の存在による鼻腔の生理機能修飾の可能性や、鼻汁中ヒスタミンが日中に比べて早朝起床時で高いなど、マスト細胞の概日時計がI型アレルギーの日内変動を制御している可能性も示唆されています2,5)また、IL-1βやTNF-αなどの炎症性メディエーターが、視床下部を中心とした睡眠調節中枢に直接作用することにより睡眠・覚醒調節に影響している可能性や2,6)、炭酸ガス刺激により鼻呼吸を苦しくすると鼻粘膜上のレセプターである三叉神経を介し、レム睡眠から浅睡眠、深睡眠に至るまですべての睡眠段階で覚醒反応を生じさせることも報告されています6) これらの研究からも、アレルギー性鼻炎と睡眠は密接に関係しており、アレルギー性鼻炎患者の睡眠障害に対しては、鼻閉を含めた鼻炎症状の改善が重要であることがわかります。

睡眠障害が及ぼす脳への悪影響

大脳の発達したヒトにおいて、睡眠は単なる「脳の休息」ではありません。むしろ、積極的な適応行動として、「大脳の保守、修復」「身体機能の回復」「情報処理、記憶の固定」といった高度な生理機能を果たします。したがって一般的に、睡眠障害は、脳機能の低下(集中力の低下、記憶障害、認知機能の低下など)、免疫機能の低下、糖尿病、脂質代謝機能の異常、メタボリックシンドローム、アルツハイマー型認知症や心臓血管病の発症リスク増大などをもたらすとされています7)。ホルモンの分泌低下につながることも知られており、主に睡眠中に分泌される成長ホルモンなどが十分に分泌されず、成人期はもちろん、特に小児期では成長に悪影響を及ぼします。

さらに、小児では鼻閉が口呼吸を誘導し、上下顎の成長を阻害するため、将来の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の原因となり得るとされています8)。OSASは注意欠陥・多動性障害(ADHD)の原因の1つであるという報告もあることから9)、小児アレルギー性鼻炎患者では、将来のOSAS予防の観点からも診察を考慮すべきでしょう2)。佐野らは口呼吸では鼻呼吸よりも前頭葉においてより多くの酸素消費を生じるため、慢性的な中枢性疲労を起こし、ADHDにつながっていく可能性を報告しています10)しかしながら、わが国では睡眠障害を考慮したアレルギー性鼻炎治療はほとんど行われていないのが現状です。それでは、どのような治療が望ましいのでしょうか。 花粉症患者を対象としたインターネット調査によると、花粉症シーズンに日中の眠気が増加すると回答した患者は、その理由として「薬の眠気」(43.6%)を最も多く挙げた一方、「花粉症の症状」「症状のためによく眠れないから」も合わせて53.3%を占めました11)。ヒスタミン神経系は視床下部に存在し、大脳皮質機能を活性化して覚醒や認知機能亢進に密接に関係していることも合わせて考えると12)、睡眠障害を考慮したアレルギー性鼻炎治療では、①薬剤の副症状として眠気を増悪させない配慮、②睡眠や呼吸症状の増悪を予防する十分な治療効果――の2点に配慮する必要があることがわかります2) 多忙な日本人がスムーズな鼻呼吸で良質な睡眠を確保するためには、睡眠障害を考慮した鼻閉・鼻炎治療がますます重要になると思われます。

参考文献:
1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会: 鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂8版), 2015, ライフ・サイエンス
2) 千葉伸太郎: 睡眠医療 2016; 10: 79-86.
3) Udaka T, et al. Laryngoscope 2006; 116: 2129-2132.
4) Smolensky MH, et al. Adv Drug Deliv Rev 2007; 59: 852-882.
5) 中尾篤人, 他. 実験医学 2016; 34: 2990-2995.
6) 鈴木雅明, 他. JOHNS 2014; 30: 424-428.
7) 宮崎総一郎, 他. ENTONI 2011; 123: 62-68.
8) Guilleminault C, et al. Arch Pediatr Adolesc Med 2005; 159: 775-785.
9) 橋爪祐二: JOHNS 2014; 30: 429-432.
10) Sano M, et al. NeuroReport 2013; 24: 935-940.
11) 岡本美孝: Prog Med 2008; 28: 2524-2533.
12) 谷内一彦: Life Style Medicine 2009; 3: 234-240.
監修:
東京大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科学教室 准教授 近藤 健二 先生

SAJP.DLE.19.07.1700