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vol.3神経反射で鼻炎治療!?

生体防御の最前線である鼻粘膜には、神経回路が張り巡らされています。その背景には、このコラムでこれまで触れてきたように、鼻は単なる空気の通り道ではなく、神経を介して脳をはじめ呼吸器・循環器・消化器などとも密接にクロストークした、ダイナミックな組織であることがあります。
自律神経は、中枢神経からの興奮を末梢に伝達します(遠心路)。鼻粘膜を含むさまざまな器官は交感・副交感神経の両方によって拮抗的に支配されていますが、体性感覚刺激が自律神経系に影響する自律神経反射を利用して鼻粘膜症状を緩和することも可能なようです。そこで、今回は鼻粘膜と自律神経反射についてご紹介したいと思います。

アレルギー性鼻炎の3大症状に神経反射が深く関与

脳幹の延髄には、呼吸、血圧、発汗、嘔吐などの中枢があり、咳嗽反射や血管収縮・拡張反射といった反射性の機能を制御します。視床下部には、体温、睡眠、内分泌腺、摂食などを制御する自律神経中枢があります。交感神経と副交感神経は、それぞれ胸・腰髄と脳幹・仙髄から出て支配器官に達します。

鼻粘膜は自律神経系のバランスで制御されており、交感神経優位で鼻粘膜血管は収縮、鼻汁分泌は増加、気管支は拡張します。アレルギー性鼻炎の3大症状のいずれにも神経反射が深く関与しており、ヒスタミンの刺激が三叉神経から脳幹のくしゃみ中枢に伝達され、呼吸反射によってくしゃみが誘発されます。鼻汁分泌は、副交感神経反射が鼻腺に作用して増加します。鼻閉は容積血管の腫脹や粘膜浮腫によって起こりますが、化学伝達物質による直接刺激とともに、副交感神経反射も関与しています1)

体性感覚刺激-自律神経反射を利用した鼻粘膜制御は可能か

自律神経反射を利用した鼻炎の対処法の1つが、43℃の加熱蒸気を吸入する局所温熱療法です2)。鼻腔内が高温多湿になることで血管・鼻粘膜が収縮、鼻腔通気性が改善し、アレルギー性鼻炎による鼻症状を抑制します。入浴や蒸しタオルでも同様の効果が期待できます。
求心路が鼻粘膜以外で、遠心路が鼻粘膜である反射、つまり鼻以外の体性感覚刺激による鼻粘膜制御も可能だといいます。例えば、運動は交感神経を刺激し、鼻腔血管を収縮させて鼻腔通気度を改善することが示されています3)
また、足の温度と鼻症状は関連することが知られています。アレルギー性鼻炎の患者さんの足の加温、冷却を行った実験では、アレルゲンの曝露がない場合、鼻腔抵抗は47℃の足湯に5分間浸かることで低下し、0℃の足冷却を1分間行ったところ、上昇しました。いずれの場合も、10~15分経つと元の値に戻りました。一方、アレルゲンに曝露された場合、足湯を行っても鼻腔通気度の改善は得られず、また足の冷却を行うと鼻腔抵抗の上昇が持続しました。(図)。


図 足湯による鼻腔通気度の改善

体性感覚刺激の活用法として、一側の腋窩圧迫により対側の鼻腔通気度が上がり、同側の鼻腔通気度が下がる"Axillary Pressure"が知られています。発汗時に局所圧迫を加えると、圧迫した対側の発汗が抑制される「圧発汗反応」も類似の現象で、圧迫側の交感神経系が抑制されることで、非圧迫側の交感神経が興奮する自律神経反射の一種と考えられています4)。日本では「舞妓の高帯」と言われ両側を圧迫することで顔面の発汗を抑えるなど、古くからこの現象を活用してきました。交感神経によって支配される他の器官でも同様の現象がみられ、圧迫側において皮膚温は低下、血圧は低下、鼻粘膜は拡張します。本コラムシリーズの第2回では、側臥位、仰臥位などの体位と睡眠期は、ネーザルサイクルに相互に影響を及ぼす5)ことをご紹介しましたが、この現象も体性感覚刺激が関係している可能性があります。
このような体性感覚刺激-自律神経反射については不明な点が多いのが現状ですが、この原理を応用した工夫が新たな治療法の開発につながるかもしれません。アレルギー性鼻炎患者では、下鼻甲介のノルエピネフリン濃度が低下しており、副交感神経優位になっていると考えられます6)。このような病態の改善には、鼻粘膜の炎症制御とともに、自律神経系のアンバランスを改善するアプローチが重要になります。

参考文献:
1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会 編: 鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症〈2016年版〉(改訂第8版): 株式会社ライフサイエンス; 2017.
2) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会 編: 鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症〈2013年版〉(改訂第7版): 株式会社ライフサイエンス; 2013.
3) Konno A, et al. Auris Nasus Larynx 1982; 9: 81-90.
4) 高木健太郎:最新医学1965; 20: 2018-2024.
5) Frye RE, et al. Arq Neuropsiquiatr 2017; 75: 9-14.
6) 藤谷哲造, 他: 日耳鼻 1981; 84: 168-173.
監修:
東京大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科学教室 准教授 近藤 健二 先生

SAJP.DLE.19.07.1700