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vol.22人3脚?! 鼻と脳の連携プレー

大脳半球の機能、役割には左右差があると考えられています。左半球は言語機能、論理的思考などに、右半球は芸術的感性や音の認知、空間認識などに関与するというのが一般的です。このような左右差、機能分化のことを脳の側性化と言い、主に大脳皮質の機能局在に関連するものですが、形態学的な左右差は一部しか解明されていません1)
一方、動物やヒトは覚醒および睡眠時を通じて、左右の大脳半球支配を交換する超日周期リズムを有しており、この脳のリズムと密接に連動しているのが、ネーザルサイクルです。右鼻呼吸優位、左鼻呼吸優位のときの脳活動は、それぞれ左脳優位、右脳優位となることが知られています。今回は、脳の側性化とネーザルサイクルの関係について、ご紹介したいと思います。


脳と鼻の超日周期リズムは密接に連動

ネーザルサイクルとは、左右の鼻粘膜が数時間ごとに腫脹と収縮を交換する超日周期リズムで、自律神経を介して中枢制御されていると考えられています。その生理的意義はよくわかっていませんが、Ecclesらは鼻粘膜の換気機能修復や免疫機能の強化(腫脹時に免疫物質を運搬、収縮時に腺分泌能が亢進)とする仮説を提唱しています2)
鼻粘膜の腫脹と収縮は、おもに下鼻甲介粘膜の深部にある容量血管の血流によって起こります。視床下部・延髄で交感神経と副交感神経の作用を制御し、左右の鼻粘膜血流と通気性を調整していると考えられています3)
睡眠時のネーザルサイクルについて、Fryeらが健康な被験者6人を対象に検討したところ、右脳の電気的活動が優位となるノンレム睡眠に比べて、左脳が優位となるレム睡眠では、右鼻呼吸が優位となりました。同検討では、体位(左または右側臥位、仰臥位)と睡眠期(レムまたはノンレム睡眠)が、ネーザルサイクルに相互に影響することも示唆されています3)
また、統合失調症患者はネーザルサイクルに変調を来たしており、その背景に脳の左半球機能不全と脳の側性化の異常が影響している可能性が指摘されています。Ozanらが統合失調症患者83例と健康な被験者64例を対象に検討した結果、統合失調症群では左鼻呼吸優位が右鼻に比べて2.8倍と高率だった一方、対照群の半数ではネーザルサイクルの偏りが観察されませんでした(図)。著者らは「統合失調症における左鼻呼吸優位は、交感神経の緊張と左脳の電気的活動低下に対応しており、左半球機能不全や脳機能分担の左右差の異常のよい指標となる可能性がある」と述べています4)


鼻炎治療で脳と鼻の自然なリズムを回復

ネーザルサイクルの乱れは、アレルギー性鼻炎やスギ花粉症患者でも生じることがわかっています。大木幹文氏らの検討では、季節性アレルギー性鼻炎患者の呼気流量を携帯型装置で12時間連続的に測定したところ、花粉の本格飛散期では、非飛散期に比べてネーザルサイクルの周期が短縮し、左右呼吸流量の差(Peak to Peak)が拡大していました5)。くしゃみ、鼻漏、鼻閉による呼吸やネーザルサイクルの乱れは、自律神経バランスにも影響し、集中力低下や睡眠障害などを含むアレルギー症状悪化の要因になると考えられます。また、鼻腔の閉鎖により鼻呼吸が妨げられることは、脳活動に影響を及ぼすことも報告されています6)。鼻炎治療によってスムーズな鼻呼吸を回復することは、症状悪化を防ぐとともに、鼻と脳の超日周期リズムの連動を自然に戻すという面から見ても大きな意義があるのではないでしょうか。

参考文献:
1) 後藤昇: BRAIN MEDICAL 2011; 135: 121-129.
2) Eccles RB. Acta Otorhinolaryngol Belg 2000; 54: 281-286.
3) Frye RE, et al. Arq Neuropsiquiatr 2017; 75: 9-14.
4) Ozan E, et al. Neurol Psychiatry Brain Res 2010; 16: 135-138.
5) 大木幹文, 他: 耳展 2006; 49: 76-80.
6) Kahana-Zweig R, et al. PLoS One 2016; 11: e0162918.
監修:
東京大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科学教室 准教授 近藤 健二 先生