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2014年4月にわが国で最初のSGLT2阻害薬が発売され、1年以上が経過した。SGLT2 阻害薬は血液中の過剰な糖を尿中に排出させることで血糖値を下げるという作用機序を有する薬剤である。 欧米では広く使用されているが、国内ではまだ十分に使われていないのが現状だ。
そこで、SGLT2阻害薬発売後1年を振 り返り、SGLT2阻害薬の特徴や適切に使用するための方策、副作用への対応、今後の展望などについて、弘世貴久先生にお話をうかがった。

 

 糖尿病では、インスリンを分泌する膵β細胞の機能が進行性に低下するため、糖尿病と診断された時点で、すでに膵β細胞機能は50%程度まで低下していると報告されています1)。このため、インスリン導入は“the earlier, the better”であると考えていますし、糖尿病のいかなる治療も膵β細胞の機能が残存しているほど成功する可能性があると考えられます。
患者さんのなかには、インスリン分泌能がなくなるからインスリンを注射するのだと考えている人がいますが、インスリン分泌能が枯渇する前にインスリン療法を開始すれば、内因性インスリン分泌と外因性インスリンが協働するため、単独では不足していた内因性インスリン分泌が活きてきます。インスリンの副作用として注目されやすい低血糖も、例えば自分の内因性インスリン分泌が残っていれば、注射したインスリン量が、食事量や運動量に比して多めであった場合でも、内因性インスリン分泌を抑制することにより低血糖を回避することができます。
インスリン分泌能が残っているできるだけ早い段階でインスリン導入を行なえば、必要量までインスリンの増量を続けていく積極的な治療が可能になるのです2)。逆に、インスリン分泌能が枯渇してから治療を開始すると、血糖値の過剰な低下に生体が反応できないため、充分な治療ができません。したがって、早く治療を開始することが何よりも重要だと言えます。

 薬物療法に頼りすぎて、食事療法・運動療法がおろそかになるのは問題です。UKPDS34では糖尿病と診断した時点で介入していますが、治療の経過年数とともに体重が増加し、インスリン治療群では12年で8kgも増えています3)。血糖値も介入当初は少し低下しましたが、徐々に上昇しました3)。やはり、治療をうまくいかせるためには、食事療法・運動療法を併用し、体重管理を行うことが大切であるといえます。
したがって、食事療法の患者指導が極めて重要になってきますが、食べることは人間の本能ですから、そこを我慢しなければいけないというのは難しいところです。

 SGLT2阻害薬は、糸球体で濾過されたグルコースの近位尿細管での再吸収を抑制するという、従来の糖尿病治療薬とは全く異なる作用機序を有する薬剤です。2015年11月現在6成分7製剤が発売されていますが、いずれも優れた血糖降下作用を有します。
余分な糖を排泄することで高血糖毒性が解除できれば、血糖コントロールもしやすくなりますので、糖尿病の治療に対し患者さんのモチベーションが上がるなど患者さんの行動変容のきっかけになる可能性はあると思います。

 SGLT2 阻害薬により排泄されるブドウ糖量から計算されるカロリーロスは1日300kcal前後ですが4)、そのことで安心して今まで以上に食べてしまうと体重が増える可能性があります。必ず食事療法と併用するよう指導することが大切です。
SGLT2阻害薬を非肥満例に投与する際には、やせぎみの患者さんが過度な食事療法と併用すると、筋肉が落ちてしまうことがあるので、注意しなければいけません。
特に高齢者ではフレイルが問題になっています。また、SGLT2 阻害薬の多様な副作用を懸念される先生もいらっしゃると思います。発売12ヵ月間の副作用発現状況結果報告によれば、その多くは本来投与すべきではない症例への使用によるものでした。したがって、適切な患者選択を行い、適正に使用することが大切です。

※フレイル:高齢者において筋力や活動が低下している状態(虚弱)のこと

 皮疹の発現は予測が難しいので、処方する前に患者さんにきちんと説明しておき、発現したらすぐに中止すればよいと考えています。尿路感染症については、男女を問わず受診ごとに検尿を行い、尿沈渣まで調べています。処方前に尿路感染症の有無を尋ねると、既往歴のある人が少なからず存在します。
いずれにしても、処方する前に患者さんにきちんと副作用の説明をし、気になる症状があれば報告してもらい、すぐに中止すればよいと考えています。

 「500mLのペットボトル1 本以上の水を飲むこと」、「食事が摂れないときは服用を中止すること」、この2点を厳守していただくようにしています。これが理解できない人と、口渇を感じにくい人、高齢でADLが低下している患者さんには投与しないほうがよいと思います。ただし、暦年齢よりも膵機能などを重視して、元気な糖尿病患者さんを選んで、SGLT2阻害薬を処方しています。

 SGLT2 阻害薬は、複数の薬剤を使っても血糖コントロールが不良な患者さんに使用されることが多いと思いますが、より早期で合併症がない、あるいは進行していないうちに投与したほうがよいと考えます5)
適切に患者を選べばファーストラインで使用しても問題はないと思います。インクレチンやインスリン療法を行っても血糖がコントロールできず、手詰まりになっている患者さんに最終手段として使うということではなく、より早い時期からSGLT2阻害薬を使用したほうがよいと考えています。SGLT2阻害薬も“The earlier, the better ” だと思います。

 今後、SGLT2阻害薬は発症早期の治療の選択肢の1つになり得ると思います。副作用が発現したり、血糖コントロールが改善して不要になれば中止すればよいと考えれば、先生方のご心配も霧消するのではないでしょうか。
「何か問題があれば、無理せずに中止する」というスタンスは、メトホルミンでも同じです。乳酸アシドーシスという重篤な副作用が報告され、使用が控えられていましたが、専門医の先生方が適正かつ効果的に使われたことで、一般臨床医の先生方にも汎用されるようになりました。SGLT2阻害薬もそのようにならないといけないと思います。SGLT2 阻害薬は糖を排泄しているだけで、糖尿病の病態を改善する薬ではないと言って、使用に積極的でない先生もいらっしゃるようですが、糖尿病患者ではSGLT2の発現が亢進し、グルコース再吸収能が上昇しているので6)、SGLT2を阻害することは病態に則しているのではないかと私は考えています。

弘世先生コメントより抜粋

引用文献
1) Levobitz HE, et al.:Insulin secretagogues: old and new.Diabetes Reviews1999;7:139-153.
2) 弘世貴久 著. 続 これなら簡単 今すぐできる 外来インスリン導入 メディカルレビュー社 2009.
3) UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group.: Effect of intensive blood-glucose control with metformin oncomplications in overweight patients with type 2 diabetes(UKPDS 34). Lancet. 1998; 352 : 854-865.
4) James F. List, et al: Sodium-Glucose Cotransport Inhibition With Dapagliflozin in Type 2 Diabetes. Diabetes Care. 2009 Apr; 32(4): 650?657.
5)「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」;SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation. 策定:2014年6月13日, 改訂:2014年8月29日
6) DeFronzo RA, Davidson JA, Del Prato S. The role of the kidneys in glucose homeostasis: a new path towards normalizing glycaemia. Diabetes Obes Metab. 2012;14:5-14.