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2型糖尿病の特徴であるインスリン分泌不全とインスリン抵抗性は、長期にわたる高血糖状態により生じた糖毒性によって増悪し、糖尿病悪化の悪循環を形成する。従来のインスリン分泌を促進する血糖降下薬は、代償性のインスリン過分泌による膵β細胞の疲弊が懸念される。SGLT2阻害薬はインスリン非依存的な機序、すなわち腎近位尿細管でのSGLT2阻害によるNa+・グルコース再吸収の抑制作用、尿糖排泄の促進作用により血糖値を改善するという、膵β細胞保護の観点からも有用な薬剤である。
そこで、今回は、糖毒性研究の第一人者でいらっしゃる川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授 金藤秀明先生に、2型糖尿病と高血糖毒性に対するSGLT2阻害薬の意義についてお話をうかがった。

 

2型糖尿病における糖毒性とは、高血糖の慢性的持続による膵β細胞の機能障害や、肝臓、脂肪、骨格筋などのインスリン標的臓器におけるインスリン抵抗性が増悪し、糖尿病が悪化することを指します(図1)。 慢性的な高血糖状態が持続すると、膵β細胞は常に多量のインスリンを分泌する必要があり、インスリン分泌が亢進し、膵β細胞は徐々に疲弊し、必要量のインスリン分泌が困難となり、インスリン不足が生じて糖尿病が増悪します。一方、インスリン標的臓器も慢性的高血糖状態下では、各臓器内のインスリンシグナル伝達が障害され、インスリン感受性が低下します。 高血糖毒性により、糖尿病初期にはグルコース応答性インスリン分泌低下による食後高血糖を呈します。進行するとインスリン生合成低下による血中および尿中のCペプチド低下を来し、数年間から十数年間の慢性的な高血糖状態により、膵β細胞はアポトーシスを起こし、最終的に膵島massが低下し、病態は非可逆状態に至ります。

この高血糖毒性には、酸化ストレスが関与しています。酸化ストレスは、ミトコンドリア内の電子伝達系の活性化や、蛋白糖化反応(グリケーション反応)によって惹起されます。酸化ストレス亢進により、膵β細胞内にある強力なインスリン遺伝子転写因子のMaf Aや、膵β細胞の分化・機能維持に関わるインスリン遺伝子転写因子のPDX-1の発現と活性が低下し、膵β細胞の機能低下、インスリン生合成・インスリン分泌の低下が生じます(図2)。また、肝臓、脂肪、骨格筋などのインスリン標的臓器ではインスリン受容体以降のシグナルが低下し、インスリン抵抗性の増大を来します。したがって、糖尿病治療では高血糖毒性を解除し、酸化ストレスを減弱させることが極めて重要です。


 

SGLT2阻害薬は高血糖毒性を解除するという位置付けを有する薬剤であり、高血糖毒性の解除は膵β細胞の保護に寄与する可能性があります。 SGLT(ナトリウム・グルコース共輸送体)は数種類あり、生体内局在も多様です。グルコースは、腎近位尿細管に発現しているSGLT1とSGLT2を介して再吸収されますが、SGLT2は腎近位尿細管に局在し、グルコース再吸収の90%を担っています。SGLT2阻害薬は高選択的にSGLT2を阻害することにより、Na+・グルコースの腎での再吸収を抑制し、尿中へのグルコース排泄を促進し、血糖値を低下させます。糖尿病治療では、インスリンの早期投与が高血糖毒性の解除と膵β細胞の保護の観点からも重要ですが、早期からのインスリン導入は患者さんも抵抗感があるのではないかと思います。また、インスリン分泌促進に働くスルホニルウレア(SU)薬やグリニド薬も、従来、しばしば使用されてきましたが、膵β細胞への過剰な負担が懸念されます。その観点からいえば、SGLT2阻害薬は、腎でのNa+・グルコース再吸収抑制と尿中へのグルコース排泄の促進により血糖を降下させる機序からも、膵β細胞に負担をかけずに血糖を低下させると考えます(図3)。

金藤先生私見

Recommendationの「副作用の事例と対策」に、重症低血糖、ケトアシドーシス、脱水・脳梗塞等、皮膚症状、尿路・性器感染症などが記載されています。適正使用は極めて重要ですが、副作用を心配するあまり、SGLT2阻害薬の適応と考えられる患者さんに処方されないのは不適切と考えます。Recommendationに留意しつつも、積極的な使用が望まれます。副作用で最も留意すべきは脱水です。脱水は、脳梗塞、虚血性心疾患などの大血管障害の引き金となる可能性もあります。発熱・嘔吐・下痢の時や、利尿薬、利尿作用のある食物との併用時には注意を要します。水分補給の際には、ケトアシドーシスを発症させる可能性があるため、清涼飲料水(多飲)は避ける必要があります。

 

 現在では糖尿病患者さんの95%が2型糖尿病です。カロリー過剰の食生活や運動不足により、肥満から糖尿病になる患者さんが急激に増加しています。肥満症やメタボリックシンドロームを合併する、または肥満傾向の、若年から壮年期の患者が、SGLT2阻害薬の適応になると考えます。また、糖尿病は、糖毒性の悪循環の中にありますから、糖毒性の解除という観点では、比較的早期から進行した時期まで、患者の治療歴や病態を選ばず使用可能だと思います。

*)日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」.SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(策定:2014年6月13日 改訂:2014年8月29日)


最大のベネフィットは高血糖毒性の解除です。前述のとおり、インスリン非依存的な機序により、膵β細胞に負担をかけることなく、血糖値の降下が得られます(図4)。また、膵β細胞の脂肪毒性解除も期待できます。肥満あるいは糖尿病状態下で大型化した脂肪細胞からは、遊離脂肪酸(FFA)やTNF-αなどの炎症性サイトカインが分泌されて酸化ストレスが生じ、膵β細胞機能を障害する“脂肪毒性”が生じます。SGLT2阻害薬により尿糖排泄が促進され体重が減少し、代償性の内臓脂肪の燃焼により大型化した脂肪組織が減少します。その結果、FFAや炎症性サイトカイン分泌の低下、脂肪細胞が分泌する善玉物質のアディポネクチンの産生増強などによって酸化ストレスは軽減し、脂肪毒性の解除、インスリン抵抗性の改善が期待できます。

SAJP.TOF.15.10.2788