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学会共催セミナー/フォーラム

記録集

第80回 日本血液学会学術集会 モーニングセミナー 3-13 ゴーシェ病と血液疾患

ゴーシェ病の概要

ゴーシェ病は、ライソゾーム酵素グルコセレブロシダーゼをコードする遺伝子(GBA)の変異に伴うグルコセレブロシダーゼの活性低下を原因とする、ライソゾーム病の一種である。神経症状の有無とその重症度によりⅠ型(慢性非神経型)、Ⅱ型(急性神経型)、Ⅲ型(亜急性神経型)の三つの臨床病型に分類される。Ⅰ型の発症時期は幼児期から成人期までと幅広く、先天性の疾患であるにもかかわらず成人以降に発症する可能性があることが特徴の一つである。

ゴーシェ病では、グルコセレブロシダーゼの基質であるグルコセレブロシドが肝臓や脾臓、骨髄などの細網内皮系に蓄積することにより、Ⅰ型では約8割に肝脾腫、半数以上に貧血・血小板減少が現れるとともに、骨痛や骨髄浸潤、骨クリーゼといった種々の骨症状が引き起こされる1)。いずれも血液内科医が遭遇する頻度が高い症状であることから、ゴーシェ病の診断において血液内科医が果たしうる役割は大きい。

ゴーシェ病の鑑別診断

ゴーシェ病患者の骨髄穿刺液中にはグルコセレブロシドが蓄積したマクロファージ、いわゆる「ゴーシェ細胞」が観察される。ゴーシェ細胞の外観は、しばしば「シルクのハンカチをクシャクシャにしたような」と表現される。しかし、血液疾患ではゴーシェ細胞によく似た「偽ゴーシェ細胞」が観察されるため、鑑別には注意を要する。偽ゴーシェ細胞が観察される主な血液疾患として、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病が挙げられる2)。ゴーシェ病と他の血液疾患の鑑別がポイントとなった最近の症例報告を紹介する。

紛らわしい症例報告1 ゴーシェ病として紹介→骨髄腫と診断
42歳女性の本症例は、腹痛、全身倦怠感、出血傾向、脾腫を呈し、骨髄検査で大型の組織球を認めたことからゴーシェ病として専門病院に紹介された。しかし、IgAが上昇していたため骨髄腫が疑われ、再度骨髄検査が行われた。その結果、組織球の増加に加えて形質細胞の増加を認めたことから、骨髄腫と診断された3)

紛らわしい症例報告2 骨髄線維症として治療・経過観察→ゴーシェ病と診断
32歳女性の本症例は、肝脾腫、白血球減少、血小板減少を呈し、肝生検で髄外造血、骨髄検査で細網線維/膠原線維の増加を認めたことから骨髄線維症と診断された。造血幹細胞移植の準備が進められたが、本人が希望しなかったことから実施に至らなかった。少量メルファラン投与によっても改善を認めなかった。2年後に実施された骨髄検査でゴーシェ細胞を認め、グルコセレブロシダーゼ活性低下の証明とGBA遺伝子変異の同定によりゴーシェ病と確定診断された4)。本症例における最初の骨髄検査の結果が示すように、ゴーシェ病患者であっても骨髄穿刺液中に常にゴーシェ細胞が観察されるとは限らない点に留意する必要がある。

血液内科医にとってのゴーシェ病

図1 ゴーシェ病関連症状の発症から診断までの期間(海外データ)

血液内科医の間で、ゴーシェ病はどの程度認識されているのであろうか。日本人50名を含む血液内科医/腫瘍内科医計406名を対象とした調査では、「42歳男性で貧血、血小板減少、肝腫大、脾腫、急性または慢性骨痛を認めた場合、どのような疾患が関連していると思われるか」という問いに対してゴーシェ病を挙げた医師は20%であり、これは白血病(65%)、リンパ腫(36%)、多発性骨髄腫(22%)に次いで4番目に多いという結果であった5)。しかし、日本人医師だけを対象に同様の調査を実施した場合、その割合は低下することが予想される。

英国で行われた、ゴーシェ病Ⅰ型と診断された患者86例の単施設後向きコホート研究では、ゴーシェ病に関連する症状の発現から診断までに要した期間の中央値は2年(範囲:<0.5 ~ 26年)で、2010年代においても、診断までに10年以上を要した症例が存在することが示されている(図16)

同研究では、ゴーシェ病の診断に至った最初の検査が何であったかについても検討された。その結果、酵素活性測定による診断やスクリーニングが行われるようになった1980年代半ば以降を含めて、一貫して骨髄検査が最も多いことが示された6)。骨髄検査の主な担い手は血液内科医であるということからも、血液内科医がゴーシェ病を認識しておくことが重要と考えられる。

早期診断、早期治療の重要性

図2 診断から治療までの期間と虚血性骨壊死のリスクの関係(海外データ)

International Collaborative Gaucher Group(ICGG)ゴーシェ病レジストリーに登録されたゴーシェ病Ⅰ型患者の治療開始時および治療開始10年後の評価項目の変化より、治療開始時の血小板数が60,000/μL未満であると、治療開始から10年を経過しても血小板数が60,000/μL以上に達しない場合があることが示されている7, 8)。また、治療開始時の脾容積が正常値の15倍超である場合、治療開始から10年後の脾容積が正常値の5倍以下である割合が低いことも示されている7)。血小板減少や脾腫が進行していない早期のうちにゴーシェ病を診断し、早期に治療を開始することが重要と考えられる。

さらに、治療開始時に虚血性骨壊死がみられなかったゴーシェ病Ⅰ型患者2,700例を対象とした検討では、診断から治療までの期間が2年未満の患者群では、2年以上の患者群に比べて虚血性骨壊死のリスクが41%低いことが示されている(図29)

ゴーシェ病を「疑う」ことの重要性

ゴーシェ病を診断するために何より大切なことは、まず疑うことである。日常診療においてもゴーシェ病を頭の片隅に置いておくことが、早期診断のきっかけになると思われる。最近Blood誌に掲載されたletterにおいても、「血液内科医は、形質細胞疾患においてゴーシェ病のことをもっと念頭に置くべきである」と指摘されている10)

それでは、どのような症例でゴーシェ病を疑えばよいのであろうか。手がかりの一つは脾腫であり、門脈圧亢進による脾腫ではないことが明らかであれば、ゴーシェ病を鑑別に挙げるべきである。海外で使用されているゴーシェ病の診断アルゴリズムも、脾腫の有無が起点となっている11)。また、脾腫に先行して血小板減少がみられることも知られており、血小板減少に加えて貧血や骨痛が認められる場合は、たとえ脾腫がなくてもゴーシェ病の鑑別を考慮すべきである。ゴーシェ病をスクリーニングするために、乾燥ろ紙血もしくは全血によるグルコセレブロシダーゼ活性測定を積極的に実施することが推奨される。

なお、近年改訂・公表された「骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 平成28年度改訂版」では、骨髄異形成症候群と鑑別すべき疾患としてゴーシェ病が追記されている12)

    • 1) Charrow J, et al:Arch Intern Med160(18):2835-2843, 2000.
    • 2) ゴーシェ病診断・治療ハンドブック編集委員会編集・監修:ゴーシェ病診断・治療ハンドブック第2版,
      イーエヌメディックス, 2016, p.9.
    • 3) Beaton B, etal:Br J Haematol 182(4):465, 2018.
    • 4) Mariani S, etal:Acta Haematol 139(4):240-242, 2018.
    • 5) Mistry PK, etal:Am J Hematol 82(8):697-701, 2007.
    • 6) Thomas AS, etal:Blood Cells Mol Dis 50(3):212-217, 2013.
    • 7) Weinreb NJ, etal:J Inherit MetabDis 36(3):543-553, 2013.
    • 8) Charrow J, etal:Am J Hematol 90(Suppl1):S19-24, 2015.
    • 9) Mistry PK, etal:Br J Haematol 147(4):561-570, 2009.
    • 10) WeinrebNJ,etal:Blood131(22):2500-2501, 2018.
    • 11) Mistry PK, etal:Am J Hematol 86(1):110-115, 2011.
    • 12) 骨髄異形成症候群の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ:
      骨髄異形成症候群診療の参照ガイド平成28年度改訂版, 2017.
    • 13) Rosenbloom BE, etal:Blood 105(12):4569-4572, 2005.
    • 14) Arends M, etal:Br J Haematol 161(6):832-842, 2013.
    • 15) Pavlova EV, etal:J Pathol 235(1):113-124, 2015.
    • 16) Salio M, etal:Blood 125(8):1200-1202, 2015.
    • 17) Nair S, etal:Blood 125(8):1256-1271, 2015.
    • 18) 井田博幸,他:小児科診療 76(8):1325-1334, 2013.
    • 19) Cox TM, etal:Lancet 385(9985):2355-2362, 2015.(承認時評価資料)
    • 20) Cox TM, etal:Blood 129(17):2375-2383, 2017.

2018年10月14日(日) 大阪国際会議場 11階「会議室1101-2」で行われたセミナーを元に制作しております。

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