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学会共催セミナー/フォーラム

記録集

【特別講演】Gaucher Disease: Inflammatory Pathways,Pathogenesis, and Treatment

ゴーシェ病の発症・進展機序

ゴーシェ病は、グルコセレブロシド(グルコシルセラミド;GC)を加水分解する酵素グルコセレブロシダーゼをコードする遺伝子GBAの変異を原因とする、遺伝性疾患である。グルコセレブロシダーゼの活性低下によりGCが分解されることなく全身の様々な組織・臓器に蓄積し、マクロファージによる貪食を受ける。GCを貪食したマクロファージは「ゴーシェ細胞」と呼ばれ、種々のサイトカインの放出を介して脾臓、肝臓、骨などにおける臓器障害や貧血、血小板減少などを引き起こす。

GCの蓄積および炎症反応と補体活性化の関係

最近、GCの蓄積および炎症反応への補体C5aの産生ならびにC5a受容体1(C5aR1)活性化の関与を示唆する研究が報告された1)。ゴーシェ病モデルマウス(Gba1-/9V)あるいはグルコセレブロシダーゼを薬理学的に阻害したマウスにおいて、局所および全身における補体の活性化がGCの蓄積、炎症反応、および炎症性サイトカインの産生に関連していることが示された。また、グルコセレブロシダーゼを薬理学的に阻害した野生型マウスは阻害薬の投与後4~5週以内に全て死亡したのに対し、グルコセレブロシダーゼとC5aR1がともに欠損したマウス、ならびにグルコセレブロシダーゼとC5aR1の両方を薬理学的に阻害した野生型マウスは、阻害薬の投与60日後も生存していた。この結果から、C5aR1の活性化がゴーシェ病の病態形成に関与していることが示唆された。さらに、ゴーシェ病モデルマウスおよびゴーシェ病患者における検討では、GCの蓄積に伴い亢進するGC特異的IgG自己抗体の産生過程に、C5aとC5aR1が関与していることが示唆された。

C5aR1はゴーシェ病の治療標的となる可能性があり、その活性化がどのような機序でGCの蓄積や炎症反応に関与しているのか、詳細な検討が俟たれる。

神経型ゴーシェ病の臨床病型

神経型ゴーシェ病は周産期/新生児期から乳児期に発症するⅡ型(急性神経型)と、乳児期から小児期に発症するⅢ型(亜急性神経型)に大別される。Ⅲ型は肝脾腫、骨病変、貧血、血小板減少といったゴーシェ病に共通する症状に加えて多彩な神経症状を呈するが、その進行はⅡ型に比べて緩徐である。

ゴーシェ病Ⅲ型はさらに三つの亜型に分類され、Ⅲa型はけいれん、ミオクローヌス発作、斜視、眼球運動障害(眼球運動失行)、運動失調などを特徴とする。Ⅲb型の特徴は眼球運動障害と重篤な臓器症状および骨症状である。Ⅲa型およびⅢb型の多くはL444P変異のホモ接合体である。Ⅲc型は心弁膜石灰化や角膜混濁、水頭症などを特徴とし、D409H変異と関連することが知られている。

神経型ゴーシェ病を対象としたレジストリー研究

International Collaborative Gaucher Group(ICGG)ゴーシェ病レジストリーに登録された18歳未満のゴーシェ病Ⅲ型患者253例を対象とした検討2)では、遺伝子型が判明している202例中163例(80.7%)が少なくとも一つのL444P変異を有し、122例(60.4%)がL444Pのホモ接合体であった。また、202例中30例(14.9%)が少なくとも一つのD409H変異を有し、11例(5.4%)がD409Hのホモ接合体であった。ゴーシェ病Ⅲ型の遺伝子型の大部分(89.1%)を、L444P変異またはD409H変異が占めていることが分かった。

同検討における診断時年齢の平均値(SD)は2.7歳(2.81歳)で、中央値(範囲)は1.7歳(0.0~16.7歳)であった。また、酵素補充療法(Enzyme Replacement Therapy;ERT)開始時の年齢の平均値(SD)は4.0歳(3.77歳)で、中央値(範囲)は2.3歳(0.1~16.8歳)であった。ERT開始5年後の生存率は92%、10年後の生存率は82%、20年後の生存率は76%であった。死因として最も多かったのは神経症状の進行(8例、全ての症例がL444P変異を保有)で、次いで心疾患(6例、うち4例がD409H変異のホモ接合体、2例がL444P変異のホモ接合体)であった。

ICGGゴーシェ病レジストリーに登録された131例の神経型ゴーシェ病患者を対象とした検討3)において最も頻度の高かった症状は眼球運動障害で、全体の半数近くに認められた。発症年齢の中央値は2歳前後であった。神経型ゴーシェ病の眼球運動障害で最も特徴的なのは衝動性眼球運動(saccade)の障害と、これに伴うhead thrusting(眼球運動に先行して頭部を横に振る代償行為)である。滑動性追従眼球運動(smooth pursuit)の速度が緩徐になることもある。そのほか、水平性および垂直性眼球運動の障害や、内斜視がみられることもある。

ゴーシェ病の神経病理

ゴーシェ病Ⅰ型7例、Ⅱ型3例、Ⅲ型4例を対象とした脳病理学的検討4)では、海馬のCA2-4領域と一次視覚野(V1)の4b層に病変が認められた。病変は三病型全てに共通していたが、その程度は疾患の重症度ごとに異なっていた。神経症状を呈するⅡ型、Ⅲ型患者の脳では神経細胞の脱落が認められたが、Ⅰ型ではアストログリオーシスのみが認められた。隣接する海馬のCA1領域およびV1の4a層・4c層には病変は認められず、特定の領域が選択的に侵されることが示された。また、パーキンソニズムを呈するゴーシェ病Ⅰ型患者2例の海馬のCA2-4領域においてシヌクレイン陽性の封入体が多数認められ、これはパーキンソン病にみられる脳幹型レビー小体に類似していた。

11年間のERTを経て12.5歳で死亡したゴーシェ病Ⅲ型の剖検例5)では、脳、リンパ節、および肺に著明な病変が認められた。肝臓と脾臓にGCやグルコシルスフィンゴシンの蓄積は認めずほぼ正常であったが、肺、脳実質および脳血管周囲にマクロファージの集簇とGCおよびグルコシルスフィンゴシンの高度な蓄積が認められた。また、海馬、小脳、大脳基底核の脳病理所見として、集簇するマクロファージの周囲にアストログリオーシスの形成ならびにLC3(オートファゴソームのマーカー)、ユビキチン、Tauシグナルの増強を認め、炎症反応の促進、オートファジーの異常、および神経変性が生じていることが示唆された。

ゴーシェ病Ⅲ型は、治療法の登場により生命予後の改善が期待できるようになった。しかし、その一方で加齢に伴う表現型の変化や、ERTが奏効しにくい臓器において生じる病変への対応が新たな課題となっている。

    • 1)Pandey MK, et al: Nature 543(7643): 108-112, 2017.
    • 2)El-Beshlawy A, et al: Mol Genet Metab 120(1-2): 47-56, 2017.
    • 3)Tylki-Szymańska A, et al: J Inherit Metab Dis 33(4): 339-346, 2010.
    • 4)Wong K, et al: Mol Genet Metab 82(3): 192-207, 2004.
    • 5)Burrow TA, et al: Mol Genet Metab 114(2): 233-241, 2015.

2018年12月1日(土) 野村コンファレンスプラザ日本橋 6階「大ホール」で行われたセミナーを元に制作しております。

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

GZJP.CERZ.19.07.0582